或る蝸牛の災難

1/7
前へ
/10ページ
次へ
雨でほどよく湿った大地。 紫陽花の葉には雨粒が残る。 我々には丁度心地よい加減の気候である。 (それがし)も優雅に葉を食みながら、 ぬめぬめと歩いていた。 ふと、歌が近づいてくる。 てーんとうむーしむし かーたつむりー おーまえの めーだまは こーこにあるー つのだせ やりだせ けっとーうだー 音程自体は調子っぱずれではないが 内容はひどいものである。 歌っているのは、おそらく小学校とやらに入ってすぐ辺りの男の子であった。 傘をブンブン振り回し、ランドセルを背負い、 腕にはゴムが伸びきった黄色かったと思われる帽子を、買い物袋のように下げている。 帽子の色が、黄色かったであろう、というのは やたらと光る灰色の染みが元の色を上回るほどに広がっていたからである。 まるで、某たちの粘液のような色が、籠と化した帽子のほぼほぼを、染めていた。 …まるで?
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加