エピローグ

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エピローグ

「ここは……」  目が覚める。喉が乾燥しているせいで咳が出る。  ゆっくりと立ち上がると、体に被っている灰や土を払い落とす。  辺りを見渡せば眩い光が、朝の目覚めを告げているよう。  どれぐらい眠っていたのだろうか。目の前には鈍色に爛れ、今にでも崩れそうな大樹が立っている。  ふと思い出す。私が意識を失う前に見た最後の景色を。それは消えることのない炎が私達を包み込み、大樹ごと燃やそうとしているものだった。  短剣を握り締めた感触はまだ残っている。 「治っている……?」  自分の手の平を見ると、焼け爛れていたはずの箇所は火傷の痕こそ残っているものの治癒していた。  どれだけの歳月かかったのか知る由もないが、私はこの通りまた生き延びてしまった。大樹に取り込まれた彼女の追憶にあったように、仲間を失い、村は廃れてしまった。最後に元凶である禁断の果実をこの世から消すことはできたが……私しか残っていない。 「どうして……どうして……! 何でこれだけ失っても私だけは生かした……!! あの時に焼かれて死ねなかったのだ!! 私を知る者もいない、孤独に打ち拉がれながらのうのうと生き延びねばならない……」  枯れた叫び声は泡沫のように虚しく散る。誰にも届くことのない声は私だけをせせら笑っているようだった。  大粒の涙が頬を伝い地面を濡らす。子供のように泣きじゃくる。  大樹は焼け切った。果実の存在が幻となったことで、憑かれたように探していた者達の目は覚めるだろう。果実を奪い合う各地の争いもこれで終戦を迎えるだろう。  果実に狂わされ、おかしくなってしまった者が次に求めるものは何か?   私はこの世界の行く末を見届けなければならない。  もはや山耳族の守り手としてではなく、果実を食べた者としてこの罪を背負いながら生きねばならない。罪滅ぼしはまだ続く。孤独な世界を闊歩する。
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