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プロローグ
「禁断の果実を食べたことがある」
その言葉は誰しもを魅了する。
不可思議なルールだが果実を手にすることは禁じられている。
だから、魅力がつまっているのだろう。
ただそれは現実の話ではなく、御伽話、言い伝え、噂話に尾ひれがつき間違って広まったなんて説もある。
事実、その果実の形や味について詳しく知っている者はいない。語っている者もいるが、大抵が嘘を言っている。想像できるものでしか表現しないから。
でも、私は食べた。幼い頃にたった一度だけ。
見たこともない鈍色に金色の混ざったような複雑な色合い。大樹の絡み合った根の隙間に一個だけそれはあった。
目を奪われた。今までに見たこともないそれは異様な存在感を放ち、黒い眼差しで私を捉えていたのだ。
吸い込まれるように果実を手に取る。
それが何か理解する間もなく一口齧り……意識を失った。その後のことは覚えていない。
でもたった一つだけ分かる。
禁忌を犯した。
それに値するほどの甘美、そして腐敗。複雑な味は誰しもを虜にして拒絶する。私の体は闇に侵食されて、元には戻れないと受け入れるしかなかった。
子供ながらに理解した。このことは誰にも話してはいけない。話でもしたらどんな罰が自分に待ち受けているのか、考えるだけでも恐怖で嗚咽が止まらなかった。
大人になってからそれが禁断の果実だと理解した。
そして、この出来事を知る者は自分以外に誰もいない。
昔からある禁断の果実の話。今でも血眼になって探している者がいる。時には種族間で争いが起き、沢山の血が流れている。
だから話せるわけもない。もし事実を知る者がいるとしたら、私の腹は引き裂かれることになるだろう。
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