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「せっかく人間の文化に触れて楽しく帰ってきたのにさ、エルリテの親父さんには怒られるし。いくら強いエルリテが倒れて目覚めないなんて聞かされると……流石に心配した」
「夫婦になるのに傍に居てやらないでどうする……大方そんなことを言われたのだろ?」
「一文一句そう言われた。でも、そこまで喋れるならもう心配はいらなそうだな」
イアラはようやくいつもの笑顔を見せた。それを見てどことなくホッとしている自分がいる。いつもいい加減な所が目立つ、だが彼のこういうカラッとした点は好感が持てる。
私には心配してくれる者がいる。そう孤独を感じなくてもいいではないか。
「イアラ……すまないが喉が渇いた」
「そりゃあ、三日間も寝ていたし喉も渇くか。待ってろ、すぐに用意するから」
彼は立ち上がると、その背中はいつもよりやけに大きく見えた。
そうだ、昔から一緒にいて成長してきた。まだあの頃のままのような気もするがもう大人だ。いつの間にか立派になったな……なんてことを思いながら彼を見る。
あの頃……あの頃とはなんだ?
イアラとはいつ出会って、いつ頃に知り合った?
思考に靄がかかる。思い出そうとすればするほど目眩が酷くなる。私はいったいどうしてしまった? 大事な何かが抜け落ちているようなそんな感覚に陥る。
「持ってきたよ」
「ありがとう」
いつもと変わらない素振りでコップを受け取る。これ以上、イアラを心配させるわけにはいかない。
水を飲み干しても、いつまでも潤わない喉に苛立ちを覚える。自分が自分ではないようだ。
「うん、美味い」
「よかった。おかわりはいるか?」
「大丈夫だ。それよりも、もう遅い時間だ。私のことは大丈夫だからそろそろ帰るのだ」
「はぁ? 帰れるわけないだろ。親父さんにも怒られたばっかだし、今日の残りは看病に徹する。お前は強いし、自分に自信があるからか知らないけどすぐ無理をする。今だって強がって俺を心配させまいとしてるだろ」
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