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イアラは怒ったように言う。なんというか、この男はコロコロと表情が変わる。まったく、一緒に居て飽きない奴だ。
それよりも、まさかイアラに説教される日がくるなんて思わなかった。勘が鋭いのか、もしくはよく観察できているか。私は一つ息を漏らすと、イアラにコップを渡す。
「やっぱり、おかわりが欲しい」
「はいよ。普段からここまで素直だったらより可愛いのになぁ」
「余計なお世話だ」
ここまで介抱してもらえるのならばお言葉に甘えよう。
もう一杯だけ水を飲むと、今度は明確に眠るという意思を持って目を瞑った。
それまでの間、イアラはただ静かに私の傍に居てくれた。ただそれだけで嬉しい。誰もいないまま、孤独に消えてしまう心配もない。
*
結婚の儀式、当日。
体に違和感がないかと言えば嘘になるが、倒れてしまったあの時に比べれば随分と良くなった。
イアラは私が倒れたのがよっぽどこたえたのか、いつもより傍にいる時間が増えた。自分本位で自由気ままな明るい奴なのだが、私のために時間を割いてくれたと思うと少し申し訳ない気持になる。
その反動か大事な日の前に、イアラは思い出したかのように村を飛び出した。我慢していたぶん鬱憤が溜まっていたのだろう。私に付きっ切りだったしそれを許したと言っても、父は釈然としない様子だった。
儀式は夜にある。
振る舞われるご馳走を用意したり、会場の準備をしたりと村一帯は忙しい。
私はというと身支度に時間を割いていた。
儀式の際に使われる深緑のドレスには婚礼の装飾が豪華に施されており、母が手伝ってくれているとはいえ私は慣れない手つきでそれに腕を通す。
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