第一章

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「似合っているわ、エルリテ。私もこれを着て儀式を挙げたけれど……懐かしい」 「うーむ……このような姿は慣れない」  普段は山耳族の守り手として一日中動いている。それこそ侵入者が来ないか、怪物はいないか……そのために少しでも動きやすいように身軽なものを着ていることが多い。それに私は弓矢や短剣を装備しているため、使用する時に衣服に引っかからないように気を付けている。  それに比べてこのようなドレスはほとんど着たことがない。確かに美しいものだとは思うが、この足元まで伸びたヒラヒラした部分には全く慣れない。なにより歩きにくい。 姿見で自分の姿を確認する。母は喜んでくれているが、やっぱり勇ましい自分には似合っていない。  そしてもう一つ気になることがある。  やっぱり私の右耳にはピアスがない。あれから探してみたものの、見つかる気配はまるでなかった。ずっと身に付けていただけに寂しい気持ちはあるし、生きている上でおそらく一回しか行われない儀式だ。このドレスと一緒に合わせてみたかった。 「イアラ君とは上手くやっていけるかしら」 「奴は私と違って堅実とは程遠い。正直、大変だとは思うが……信頼している。それに私よりもイアラのほうが明るいのだ。楽しい家庭になる」 「あらエルリテがそんなに褒めるなんて、よっぽど好きなのね。あなたのその真っすぐにものを言うところも、真面目なところも、与えられた仕事に熱心なところも……結婚した後にも必ず活きていく」 「そうだと良いが」  厳格でいつも怖い顔をしている父、そして温厚で穏やかな母。真逆な性格の二人が上手くやれているのだ。私もイアラと問題なく夫婦の生活をできるのではないかと、そこはあまり心配していない。  母はどこか懐かしんでいるような寂しんでいるような遠い目をしていた。おそらく自分が結婚の儀式を挙げた時のことでも思い出しているのだろう。当然その時の母を見たことはないが、私よりもよっぽどドレスが似合っていたはず。何と言えばいいか分からないが、母は私なんかよりずっと女性らしい服装が似合うのだ。 「さっ、その花嫁姿をお父さんにも見せにいきましょう」
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