第一章

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「何を言っているのだ……?」 「何って……迎えに来たんだよエルリテを」  イアラの言うことが何を意味しているのか理解できない。ただ、彼はいつも通りの笑顔を見せていた。 「迎えにだと? そんなこと一度も聞いていない」 「察しが悪いなぁ……。エルリテは俺のために売られるんだよ。ここの村の連中と一緒に」  「売られる」という言葉に一つ思い出すことがある。  イアラは時折、他種族の物を持ち帰ってくる。だが、それと同時に村の物も無くなっている。今思えばそれは決まってイアラが山を下りる時。  コイツは山耳族の物を勝手に持ち運んで、他の種族と手を組んでいたとでもいうのか? 「おいおい、鈍いな。まだ気付かない?」  イアラのその立派に尖っている山耳族の象徴的な耳が縮んでいく。傷だらけの皮膚は脱皮するかのように剥がれていく。最初から怪我なんて無かった、綺麗なままのイアラへと戻る。  その光景を見てもなお、私には何が起こっているのか理解できないでいた。  いや信じたくなかった、受け入れられなかったのだ。 「俺は最初から山耳族じゃない」 「山耳族のふりだと? いつの間にか馴染んでいたとでもいうのか……?」  通りで記憶にないはずだ。イアラと初めて会った時のことや、思い出が曖昧なのだ。いつの間にか一緒にいた……最初から存在したように。 「俺は他種族の生活圏に寄生し、その環境に適応し姿を変えていく好偽族だ。いくらでも姿と形を変えられる。能力までは真似できないから大変だったが。山耳族の仕草を観察して真似て、物で釣らねぇと信用もしてくれないし……俺の時間を返してほしいよ」  だからイアラは他種族のところへよく行っていたのか……。その姿形を自在に操れるのであれば、侵入することだって難しくはないのだろう。  つまり寄生先の物を盗み、それを利用して色々な種族へ適応して姑息に生きてきたのだ。 「何故だ、何故、私を騙していた。私に近付いた……」 「そんなの……禁断の果実があるからに決まっているだろ?」  イアラは吐き捨てるように言う。  父から聞いたことがある。禁断の果実は言い伝えや、御伽話ではある。でも、未だにそれを信じて探している者もいる。
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