第一章

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第一章

「痛ッ……また、最悪な夢か」  エルリテ・セーヴィ。私は名前を呼ばれながら目が覚める。  最近、寝覚めが悪い。夜更かしをしたわけではないが、寝不足のようなアクビが無抵抗に吐き出される。それもそのはずだ。こういう時は大抵、自分に不幸が訪れる体験を夢の中でする。  今回で言えば自分の耳が切り落されるところで。やけにその時の感触が残っているようで気持ちが悪い。思わず自分の両耳に手を当てると、しっかりとついていることを確認して「ホッ」と安堵の息を漏らす。 「水浴びでもするか」  眠っている間にかいた汗のせいで肌がじっとりとしている。  それにこの中途半端な眠気を払うには水浴びが最適だろう。  用意を済ませ家屋の戸締りをすると、近くの湖へと向かうことにした。   * 「誰もいないか」  灰色の空は悪天候を予感させるが、水は透き通るような青で綺麗。  ここは普段から水浴びに使用している湖。まだ早朝だからか、私以外に誰もいない。  汗で張りついた衣服を脱ぐと、足の先からゆっくりと入水する。心地良い冷たさを指先で感じながら、体が目覚めていっているのを実感する。 「天気が悪いな。数日もすれば結婚の儀式を挙げるというのに」  私達の種族は山頂で生活している。空模様と雲の動きで天候が読める。この空を見ても分かるが、間違いなく今日は雨が降る。  食材を捜しに行こうと思っていたが、やめておいたほうが賢明だろう。
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