第二章

1/28

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ

第二章

「ここは……」  どれぐらい意識を失っていたのだろう。全身にはまだ力が入らない。  目を開けるとそこは薄暗く狭い個室のようだった。扉が一つだけ、窓はないために逃げ出せるような箇所は無い。湿度が高く熱気がこもっているせいで室内は蒸し風呂のように暑い。 「手足が動かん……」  両手は高めに拘束してあり、自力では到底壊すことなんてできない。足には枷、そこからは鎖が伸びて重りがしてある。  意識を失っている間に拘束されてしまったようだ。 「イアラは……! イアラは本当に……」  意識を失う前のことが鮮明に思い出される。  胸を刺され、首を切り刻まれた。生々しく流れる鮮血、イアラの死体と目が合った。もはや生きていた頃の太陽のような笑顔はどこにもなかった。  何故だ。裏切られて、直前まではあんなにも怒りが湧いていた。利用されたに違いないのに時間というのは残酷だ。一緒にいる時が長ければ長いほど簡単には感情が変わらない。優しくて明るい奴という印象が簡単には塗り替えられない。  もしかしたらイアラにも事情があったのかもしれない。もっとイアラのことを聞いておけば、相談に乗ってやれていたら変わったのだろうか。  イアラとの思い出が、記憶が巡る。 「うぇっ……」  しかし、どうあがいても死体と目が合ったせいでそればかりが連想される。どんなに笑い合っていたことを思い出しても、あの強烈な姿がトラウマのようにべったりと塗られて離れない。  私は耐えきれずに嘔吐してしまう。 「目を覚ましましたか」  扉が開くと深紅の蛇目は光なく私を捉える。  後ろで一つにまとめ尻尾のように垂らしてある黒髪が揺れ、ヴィレンスはゆっくりと近付いてくる。彼の足音と、私の荒い呼吸音だけが部屋に響く。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加