第二章

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 失くしたと思っていたが……いや、今思えばイアラが盗んだのだ。奴はよく話をする時に相手の目を見続ける。その瞳に吸い込まれるような感覚に陥り、注意が奴の顔に行っている間に巧みに物を盗んでいたに違いない。  水浴びをして帰った後にピアスを外した。そのタイミングでイアラは家に来て話をしている間に手に取り、それをヴィレンスに渡した。おそらくは禁断の果実に紐づいた物だと狙いを定めたから渡したのだろう。 「禁断の果実と言えば山耳族が守っていると知っていたのですが、このようなピアスをしている者は君だけだと。そんな話を聞くと何かあると思いませんか?」 「知らん。いつの間にか身に付けていたのだ」  嘘偽りはない。このピアスと私の過去に当てはまることがない、思い出すことができない。どちらかと言えば私のほうが知りたいまである。 「そうですか。もう一つ面白いことが判明したのです。これ、調べてもどの物質とも一致しない、似た物すらない。それなりに様々な種族の大事な物を見てきたのですが、どれも謎を解明するには苦労しなかった。こんな経験は初めてです」  ヴィレンスは今までにないぐらい愉快に言う。  どういうことだ? これはこの世の物ではないとでもいうのか?  普通の金や銀で作られた物だと思っていたが、そうではないらしい。てっきり山耳族のしているピアスは全て同じ材料、製法だと。そのような視点でこのピアスを見たことはなかった。  だとすれば、これに対する謎がますます募っていく。ただ一つだけ分かる。あのピアスは私にとって大事な物で、使命感のようなものが私に訴えかけている。ここまで気持ちが惹かれているのは初めてのことだ。  鈍色の果実もまた私に呼応するように怪しく黒光りする。 「アナタの凛とした態度にハッキリとものを言うところ、どうも嘘をついて隠し事をしているようには見えません」 「最初から嘘など言っておらん」 「気が変わりました。このピアスのこと、そして禁断の果実のこと。山耳族には謎が多くて僕の探求心を煽るには充分です。それに今後の武器を開発する上でも、山耳族の耐久テストもしないといけませんしね」 「私は何も知ら……」  言い切る前に、私の顔面には強烈な衝撃が走る。一瞬、意識が飛んだとさえ思えた。そして叫ぶことすらも許さないほどの痛みが襲いかかる。  顔面を思い切り拳で殴られたのだ。防御態勢もとれないこの拘束状態で、無抵抗な顔を躊躇いもなく殴ったのだ。  突然のことで訳が分からずに涙が頬を伝う。
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