第二章

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 村を守れなかったとしたら全て私のせいだ。自分の不甲斐なさにまた涙が出そうになるが、今ここで泣いてしまえば自分から希望を捨ててしまうような気がして堪えた。 「おはようございます。よく眠ることはできましたか?」  ヴィレンスが昨日と変わらぬ様子で部屋に入ってくる。  奴は両手でトレーを持っており、それには透明なグラスと真っ黒な色のボトル。それを見て私は透明な水を勝手に連想して思わず喉を鳴らす。  この暑い部屋にどれぐらいいたのか分からない。今思えば随分と水分を摂取していない。儀式の準備があり、イアラの裏切りがあり、ここに連れてこられた。水を飲むタイミングなんてどこにもなかったのだ。  もしもボトルの中身が飲み物だとしたら、体の芯からそれを欲している。 「一晩考えたのですが、アナタにも選択肢を与えようと思います」 「選択肢だと?」 「山耳族、果実についてもっと知りたいので、そちらの方が円滑に進められると」 「……分かった。私が知っていることならば答えよう」  私の知っていることなんて、果実の御伽話と山耳族の習性ぐらいだ。  それよりも昨日のことがあったのだ、手荒なことをされると思っていたが意外と話の通じる奴なのだろうか? 淡い期待が頭を過る。 「では早速ですが……そろそろ喉が渇きませんか? 飲む機会を与えていないと、すっかり忘れていました」 「喉は……乾いた」 「そこで、アナタには山耳族について話してもらいます。何でもいいです、アナタの知っていることを全て」 「わかった。話そう」   *  自分が生まれてから教わってきたことを思い出しながら奴に話した。  山耳族が魚や野菜しか食べていないため華奢な者が多いこと、長い耳は遠い音を拾い危機察知をするため……そんな習性や特徴。私は山耳族の長の娘で、守り手として山頂を見回っていたこと。  もう一つは禁断の果実が山耳族の間に伝わる御伽話に出る空想の産物で、もし実在するとしても果実に手を出すことは禁じられていることを伝えた。生まれてこの方、山を出たことはないがそれでも果実を見たことがないということも。  その間、ヴィレンスは話を黙って聞いていた。話し終わった後も、しばらく顎に手を当てて何かを考えているようだった。
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