第二章

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 私はその手には乗らない。どこまでも冷静になって、コイツの思惑になんて付き合わない。そんなことを思っていると、ヴィレンスの表情は急に険しくなる。 「アナタはどの立場で質問をしているのですか?」 「どの立場だと? 私は山耳族の守り手として……」 「そんなことを聞いているのではありません」 「いっ……!」  私は不意の一撃を顔面にくらう。口を閉じていなかったせいで、口内を噛んでしまい自分の血の味がいっぱいに広がる。昨夜と同じ鼻柱がどんどんと熱くなっていくと、詰まっていた血の塊と一緒に鼻血が垂れてくる。そのせいで口、鼻での呼吸がしづらく目の前が白黒と安定しない。  情けないことに口をパクパクして必死に呼吸をしようとする。それでも部屋の熱気のせいでろくにできていない。  苦しい、ただ苦しい。息を吸い込むと猛烈な熱気が喉に張りついてくる。 「あっ……あっ……」 「アナタは囚われの身。『一つ質問』と聞いたので許したというのに、傲慢にも複数の質問をしてくるなんて……身の程をわきまえていただかないと」  そうだ、私は答えを急ぎ過ぎてしまったのだ。自分以外の山耳族に、村がどうなったのかを知りたかったために。せっかく情報を得られる好機だったのに……それを逃してしまった。  奴の手に乗らない? 私は何を考えているのだ。自分の誇りが邪魔をした結果がこれだというのか? 今はそんな自分の感情を優先するよりも、アイツの言うことを素直に聞いて有利に情報を得ることが正しい道ではなかったのか?  情けない。自分の無能ぶりに呆れを通り越してしまう。この痛みも、自虐も、自分を責めているようで心底嫌になる。 「そうやってまた涙を流すのですか」  痛みと熱にやられてその問いに返すことができない。この自分の意志とは別に勝手に流れ出る涙も、また自分を乏しめているようだ。 「あんまり僕をガッカリさせないでくれ。君のあの凛とした態度が好きなのです。こんな涙脆いなんて……ただの愚者と同じですよ」  首を横に振る。また奴の機嫌を損ねてはいけない。私は強い山耳族の女だ。山頂の見回りをして戦える守り手なのだ。  そう自分に言い聞かせて、痛みを我慢する。 「そうです。その鋭い目つきです。アナタのその戦士のような視線がいいのです」 「質問は……取り下げる……」
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