第二章

9/28
前へ
/83ページ
次へ
 ダメだ……。このままでは本当に頬が破裂してしまう。殴られているせいで鼻での呼吸はしづらく、口内も塞がれているせいでまともに息ができない。もうこれ以上、頬も耐えられない。 「この血もしっかりと抽出したものですが……アナタはそれを無駄にするのですか」 「うっ……ッん……!!」  ヴィレンスはあろうことか更にボトルを深く押し入れる。その勢いに苦しさは増し、思わず噎せ返りそうになるもヴィレンスはもう片方の手で私の口を無理矢理に押さえる。  もう無理だ。せっかく耐えていたのに、こればっかりは限界だ……。  暗転する視界、既に溜まっている血液を飲み込み喉に通していく。その度に嫌な感触が喉を伝い体内へと沈む。まるで何かが侵食して、私の体内を犯しているようだ。  早く終われ……早く飲み終わってくれ……。 「今度こそしっかりと飲むことができたようですね」  ただ、液体を飲み込むだけ。ただそれだけのことなのに、永遠とも思えるような地獄のような時間だった。  一杯目を飲んだ時のようにすぐさま胃が気持ち悪くなり、吐き気が襲いかかる。ここで吐いてしまえば、また同じことを繰り返される……私は血が出るほど唇を強く噛み締める。血液を飲むことに比べたら、自傷していたほうがまだマシだ。 「アナタのその勇気が山耳族を生かしたのです。これから毎日、血を飲んでもらいます。もちろん僕以外の種族のも、山耳族と混ざり合うことでどうなるかの実験です。慣れてきましたら次の段階に入りましょう」  毎日……毎日こんな不味いものを、倫理的にまずいことを私の体で試すというのか……? 想像するだけでせっかく我慢していたのに、嗚咽してしまう。  こいつは私をどうしたいのだ……? 答えなんて出てきてほしくないが、私はただ力無くうなだれることしかできなかった。 「よくがんばったね、お人形ちゃん」  ヴィレンスはどこかスッキリとした表情を見せると後片付けをする。私の吐き出した物や、空になったボトルを慣れた手つきで。  早く消えてくれ、部屋から出ていってくれ。身動きの取れない状態で、こんな狂った奴と同じ空間にはいたくなかった。 「まだ午前ですが、ゆっくりとしてください」  ようやく出ていく……そう思っていたのだが、ヴィレンスは振り返ると、今度は私の腹部を思い切り殴りつける。 「っ……うえっ……!!」  私の反応を見ることなく、ヴィレンスは部屋を出ていった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加