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「気配……何者だ!」
微かな音だった。それは風で草木が揺れるようなものではなく明確な足音。
咄嗟に立ち上がると、腕を前に組み胸元を隠す。
「すまない。覗く気はなかった」
声の低い男は対面側の岸辺に立っていた。
身長は私なんかよりもずっと高く、雲のような鈍色の髪に目がいく。黒いだけの片側マント、装飾もなにもない無地のスーツは髪色とは対照的な黒曜色。そして、その服の上からでも分かるほど男の腕は太いように見える。
鍛えているような体つきと服装。彼はいわゆる騎士というやつだろうか。無防備な私がまず勝てる相手ではないと直感する。
「見ない顔だな」
「ここに着いたばかりだ」
ぶっきらぼうに男は言うと光のない左眼が私を捉える。右目には傷痕があるようで閉じたまま。
この男を一目見て分かることだが、明らかに私達とは違う種族だ。耳の形がまるで違う。それにこのような体格の男は周りにはいない。
「貴様……人間か?」
私の問いに男はゆっくりと頷く。
「その尖った耳……山耳族か」
男は私達のことを知っている。
『山耳族』……それは私達の種族名だ。山頂を住処にして自然の中で成長してきた。それこそ、他の種族間とは関りを持たずに生きている。
野菜や魚を主食としているため、男女問わずに華奢な体格が多い。そして、私達の特徴としては長く尖っている耳。
人間達の間でどのように噂されているかは分からないが、この男は少なくとも私達がどのような種族か理解しているようだ。
「だとしたらなんだ。人間様はここを襲おうというのか」
男は微動だにせず、何の反応も示さない。まるで私のことを見下しているような冷たい眼差しを向ける。
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