第二章

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 相変わらず室内は暑く、脱水症状なのは明白だ。よく眠れないのもあってか、常に意識は朦朧としている。ただ、こんな状況でも奴が部屋に入ってきた時だけは嫌でもハッキリとする。  私を死なせないためだろう水は一日に二回、コップ一杯分だけ飲むことを許されているがそんな量で体は満たされない。山頂では透き通った美味い水がいくらでも飲めるし、水浴びができた。そんな環境とは違いここは地獄だ。  もう何日も水を浴びていない。自分でも分かるほど体が臭う。それもそのはずだ、何度も嘔吐し、大量に汗を流し、出血している……臭わないほうがおかしい。 「起きていますか。早いですね」  そんな私の思いなんてまるで知らないヴィレンスは当然のように部屋に入ってくる。  その手にはトレーを持っていたが、いつもと違いグラスとボトルではなかった。その代わりにトレーには皿が一枚だけ。中身が見えないように蓋までしてある。  食事だろうかと喉が鳴る。思えばこの一週間は水と血液だけしか胃に入れていない。考えないようにはしていたが腹は空いている。それも身が捩じれてしまいそうなほどに。 「アナタの反応もつまらなくなっていたので……今日は食事にしましょう」  そう言うとヴィレンスは私の目の前に皿を置いた。  高めに拘束されていた両手も一時的に解除される。もちろん、両手は自由に使えないよう手錠をしてあるが、それでも同じ体勢ではないというだけで多少は楽。 「こちらです」  蓋を外すとそこにはこんがりと焼けているのかハッキリと湯気が、食欲を刺激するには充分なほどのスパイスの香りが鼻孔をくすぐる。私の意思より先に腹の音が鳴り、涎を垂らしてしまいそうなほど今の私には美味しそうな料理に見えた。  しかし、疑問符は浮かび上がる。本当にこれを食べてしまっていいのか、そしてこの料理に何が使われているのか。焼けて茶色いそれは肉なのか魚なのか分からない。血液を飲ませてくるとんでもない男だが……そんな奴が用意する食事なんて信用できるわけもなく。 「これは……食えるのか……?」 「もちろんです。胃種族の研究をしているので山耳族が何を主食にしているのかも分かっています。これは肉ではなく魚、アナタでも食べられる物ですよ」 「……そうか」  もう何も考えられなかった。目の前に出された料理が肉ではないと分かった瞬間、私は獣のようにそれに食らいついた。  もはや作法なんて、はしたない姿なんて関係ない。ただ一心不乱だった。気が付けば数分で完食してしまっていた。皿の上には骨以外は綺麗さっぱり何もない。 「よほど空腹だったようですね。どうでしたか味は」
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