第二章

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「皮は少し弾力があって噛みにくい。身の部分も少し硬いが……味は美味かった」 「そうですか。ご満足いただけたようで」 「ないよりは……マシだ。それより何故、食事を?」  ヴィレンスは考える素振りを見せると、すぐに笑みを浮かべる。 「僕もそうされてきたからです。頑張った時にはご褒美がもらえる。アナタは一週間ほど僕の実験に協力してくれました」 「それだけなのか……?」 「それだけです」  ヴィレンスは即答した。  私としては嬉しいのだが、どうしても裏があるのではないかと探りを入れてしまう。  しかし、いつもの胡散臭い笑みとは違いどこか優しさを感じるような気がした。血液を飲ませている時とは違い、偽りなく褒美だと言いたいのか?  後片付けをしている奴の背中はあまりに無防備だった。高くに拘束されていない今ならこの手が奴に届く? 足にも枷はあるし重りに繋がれてはいるが、奴がもう少し近付いてきたら……思わぬ好機に胸が高鳴る。  同時にこの一週間の記憶が頭の中に流れる。私はこの男に何をされてきた? 暴力、暴力、暴力……殴られた時の感触を体が嫌でも覚えている。恐怖が植え付けられているのか……全身に力が入らない。  でも、ここで動かなくてどうする? もしこの好機を逃したらまた理不尽な暴力の日々を過ごすことになるのではないか?  自問自答を繰り返すも、答えは出ないまま鼓動は早まっていく。 「しかし、この部屋も酷い臭いですね。毎日、掃除しているのですが」  奴が振り向けば、私の肩は意識せずともビクッと震える。ヴィレンスの瞳を見ると抵抗する気なんてものはどこかへ消えてしまった。  失敗した後のことを考える……私はよほど痛みを怖がっている。いずれ、いずれまた同じような場面が訪れるに違いない……。 「良いことを考えつきました。浴場に行きましょう」 「浴場だと……?」  奴の突然の提案に戸惑いを隠せなかった。
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