第一章

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 聞いたことがある。人間の成長速度と技術の発展は他の追随を許さない。そのためか人間は人間だけを信じている。他の種族を見下しているとか。  しかし、この山頂には滅多に人が来ない。そもそも人間が来ても迷ってしまうほどに入り組んでいる場所だ。遭難した……可能性は考えられる。それともこの人間の騎士は山耳族の居場所を特定し、仲間を引き連れてここを襲う算段か? 「ここは狙われている」  それだけ言うと男は去っていく。私の「待て」という言葉にも反応を示さないまま。 「狙われているって……どういうことだ」  人間の言葉なんて信じられるわけがない。どういう理由でそれを伝えに来たのか。  あまりにも肉付けされていない淡々とした言葉は歯切れが悪い。それだけでは意図が通じない。人間というのはあそこまで伝達能力が低いのか?  次々と疑問符が頭に浮かぶ。せっかく水浴びをして清らかな気分だったというのに。 「はっ……いかん」  男が去ってどれぐらい水に浸かっていたのか分からないが、先ほどよりも空は暗くなっていた。そして、轟音と共に大粒の雨玉が降り注ぐ。  どうも調子が狂う。あの人間のせいで山までも不機嫌なようだ。  私は急いで湖を出ると、自分の家屋へ戻ることにした。   * 「そこまで遠くないから良かったものの……」  暖炉の前でぼやく。  湖まではさほど遠くはない。とはいったものの山の雨だ、降り出したと思った時にはもう遅い。すぐに激しさを増して風までもが進路を邪魔する。  衣服はびっしょりと濡れてしまい私自身もしっかりと雨に打たれた。せっかく汗を流しに行ったというのに……。  湖の水浴びでしか得られない心地良さもあるのだが、こんな天気だったらそもそも行くべきではなかった。
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