第三章

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 余計に争いが激しさを増していのならば、それを止めようとする者もいる。それがラヴァルという男か。 「しかし、いつ食したか覚えていない……。もしかしてこのピアスが身に付いたのと同時にその時の記憶が抜け落ちたか?」  果実のピアスを見つめる。凝視しても、触ってみても特に何も起こらない。本当に食した証拠なのか疑問はあるが、夢と同じようなことを辿っている。予言した不幸が身に降り注いでいるのだ。  どちらにせよラヴァルの意見には賛成だ。御伽話だと思っていた空想の果実……これが世を混沌にしている。果実の成ると言われている大樹は確かにあるし何度もこの目で見ている。山耳族として生まれてきてからずっと大樹を見てきたといっても過言ではない。  でも、果実だけは見たことがない。だから食した記憶だってない。  ただ大樹の存在が幻想を抱かせているのならばそれを焼いてしまうというのは良い案だ。嘘か真か分からないものが多大な影響を与えているのならば消すべきだ。  幼い時から大樹を守る任を父から与えられた。そして、果実のせいで幾つもの命が失われていくのを見てしまった。そんなものを守る価値が果たしてあるのだろうか? 山耳族の滅んでしまった今……本当にそれほど山耳族にとって大事なものだったのだろうか?  父は何のために私を守り手に選んだ? 真相を知っていたのだろうか……。 「あの頃は疑問を唱えてこなかったが……不可解なことばかりだ。父の言っていた最後まで果実を守れという意味の真相は何なのだ……。父ともっと話しておくべきだった」  今更ながら後悔が押し寄せてくる。私が慎重に選択していれば、もっと父と話をしていれば……溜息を漏らしてしまう。何も疑わずにそういうものだと思い込み今まで生きてきた自分に嫌悪する。 「はぁ……どうしてこうも役立たずなのだ私は……ん?」  ふとキッチンの方へ視線を向けると、ノートが置いてあることに気付く。表紙には『異種族の食生活……レシピ』と書いてあり、年季が入っているのか少し色褪せている。 「人間なのに異種族の食事だと?」  人間が何故に異種族の食事を調べているのかと疑問符は浮かぶものの、あれだけ美味い料理を振る舞うのだ、きっと趣味なのだろうと自分を納得させる。  勝手に読むのもどうかと思ったが、退屈な私を惹くには充分だった。  流し見程度でパラパラとめくっていると、付箋が少し出ているページに目が行く。誘導されるかのようにそのページを開くと山耳族についての項目があり、そこには絵付きで主食、料理のレシピが載っている。どれも見覚えのある、今となってはどこか懐かしささえも感じるものばかり……。  そうか。ラヴァルは私のために、山耳族の口に合うもの作ってくれたのか?
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