第三章

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 そう思うと途端に恥ずかしくなる。人間だからといって一人で疑って、警戒して……実際は私のためにここまでしてくれる良い奴ではないか……。 「おかしな人間だ……まったく」  心が少しむず痒い。自分の顔が照れと嬉しさで熱を帯びている。食事なんかで私を惑わせるなんて、やはりあの男は侮れない。  次は私が手料理を振る舞って、どちらが美味い物を作れるか白黒ハッキリしてやる。  そんなことを思いながら、レシピを頭に叩き込み時間を潰していく。   * 「ラヴァル、そろそろ外に出たいのだが」  ラヴァルの家に厄介になって早一週間ほどが経った。最初こそラヴァルのレシピノートを読んで時間を潰していたが……それにも限りがある。掃除をしようにも、そもそも手入れが行き届いているせいで私の出る幕はない。  目が醒めた時に比べて体も徐々に回復していった。となると、今度は身体が鈍って仕方がない。これだけ家屋でじっとしていることが地獄だとは思わなかった。もっと言えば一日の半分以上を外で過ごしていた私にとって、おとなしくしていることが耐えられない。  そういうことで痺れを切らし、ついにラヴァルに直談判することにしてみた。 「ほら見ろ。この料理だって美味くできた……だが、もう料理の練習だけで一日を過ぎていくことに耐えられん!」 「……分かった。出掛けよう」  ラヴァルは表情変えずにあっさりと了承した。  もはやこの男の淡々とした反応には慣れてきたが、感情の起伏がないせいで機嫌が良いのか悪いのか分からない。  とはいえ、外出する許可を得られたのだ。ここまですんなりいくのならば、もっと早めに言えば良かった。 「このローブを羽織れ。耳を隠せるだろ。それはお前を守ってくれる」  ラヴァルは黒曜色でフード付きのローブを手渡してくる。ラヴァルが着用している物だからか、自分にとっては随分と大きく感じるが姿を眩ますには良い。  今となって山耳族は私一人。それにもし禁断の果実の在りかが出回っているなら、山耳族と知られた場合に何をされるか分かったものではない。そういう意味ではこのフードで顔を、尖った耳を隠せるのは都合が良い。 「少し前が見えにくい……っが、問題ないだろう」 「行くぞ」
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