第三章

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  *  久しぶりに外の空気を吸う。村のあった山頂に比べれば美味いとは言えないが……それでも室内にこもりっぱなしというよりはマシだ。  しかし、人間の住む場所というのは初めてで多少なりとも緊張する。街中を歩く者の数は多く、立派な建物が並ぶ中に活気のある商売人が声を張り合っている。山耳族の村ではまず見られない光景。  確かにこれだけ栄えていると人間の技術、発展、その成長速度に慢心してしまう気持ちが分かる。こんな力があれば異種族なんて対等に思わないだろう。  思わずフードを深く被ってしまう。そうだ、私が今いる場所は人間の住む場所なのだ。もし私が山耳族と正体を知られてしまうと……想像もしたくない。ふと前を見ると、先ほどまで先導していたラヴァルの姿がなかった。 「はっ、はぐれた……?」  身構えすぎたのか前をしっかり見えていなかった。それとも人間の多さに見失ってしまったか、フードが大きく充分に視界を確保できていなかったせいか……辺りを見渡すも奴の姿は見えない。  まさかこんな見ず知らずの場所で置いていかれるとは……。奴の歩く速度は早ければ一歩も大きい。もっと私の歩幅に合わせてくれても良いではないか! 「ラヴァルめ……行先も言ってなかったな……。どうしたものか」 「おい、迷子かぁ?」 「……何者だ」  声がした方を向くとそこには銀色に輝く板金鎧を身に纏った大柄の男。頭にはヘルムを被っており表情が分からない。これでもかと大きな戦斧を背中に担いでいるため、抵抗なんてしようものなら真っ二つにされてしまうだろう。  それよりも、コイツはただでさえ身長の高いラヴァルよりも更にデカイ。私のことなんて子供ぐらいにしか見えていないのかもしれない。 「俺はさすらいの騎士、ホルド・パワル様だ。それよりそこの迷子、テメェあんまりこの辺で見ないなぁ?」 「……そうだろうか。さすらいなのだろ? 気のせいではないか?」  逃げなければ……この男からは危険な香りがする。自分の勘がそう告げているが、この人の多さ、突然この場を去ろうとしても逆に怪しまれる。だからといって力で解決しようとしてもこの図体に鎧、私の攻撃が通るとは到底思えない。 「怪しいなぁ? そのフードをめくって顔を見せろや」
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