第三章

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 そんなに怪しい選択はとっていないはず。しかし、この男もまた勘が鋭いのか。  自ら招いた逆境というわけでない。ここでフードをめくり尖った耳が見られてしまえば一発で捕獲される。言い逃れなんてできるわけもない。 「もし異種族だったら痛めつけてよぉ、禁断の果実のことを吐かせられるからなぁ。テメェもそうなりたくなけりゃぁよぉ、早く顔を見せて人間って証明しろよなぁ!!」 「クソッ……」  ホルドは私のフード目掛けて腕を伸ばす。その巨体が私を覆い被さるように近付いてくるせいで進路を塞がれる。それに街並みを歩く人間だっている。こんなことが日常的に行われているのか全くこちらを気にしている様子はない。だが、私が暴れたらどうなる。  捕まるわけにはいかない。それなら多少他に被害が出てもいい、このまま後ろに大きくジャンプして奴の腕を避けて全力疾走しよう。その重たそうな鎧ならばどのみち素早く動けまい。  心の中で三つ数える。そして、奴の動きを見極める。 「今だ……!」 「テメェ! 待ちやがれ!!」  フードを押さえながら後ろへステップする。予想していた通り、奴の攻撃を躱すことができた。  そして、振り返ることもせず私はただひたすら街中を走り抜ける。さいあくラヴァルに再会できずとも、家の場所は知っているのだ。だから、今はただ自分の姿が見られないように逃げるしかなかった。  入り組んだ道を、人を避けながら全力で駆ける。随分と久し振りに走っているせいですぐに息が切れるも、ちょうど良さそうな隙間を見つけると、そこを通り抜けて路地裏へ進んでいく。すると広場のような場所に出るがその先は行き止まり。  街中の喧騒とは違い誰もいない。異種族ということを分かられる心配はなさそうだ。 「ここまで来れば……大丈夫だろう……」  山頂にいる頃はこんな短い距離を走るだけで息は乱れなかった。それなのに情けないことに過呼吸に陥ったようで、頭がクラクラし全身が痺れているようだった。膝と手を地面について大きく呼吸をする。  人間の街というのはこうも野蛮で冷たい場所なのか? 騎士だったら横暴を働いても許されるのか、住民は誰も気にしていない様子だが弱みでも握られているのか? 山耳族のように常に協力態勢で厄介ごとを解決することはないのだろう。  改めて人間という種族の在り方をこの目に見た。  そしてもう一つ。ホルドのように禁断の果実を求めて躍起になっている者は多いのだろうな。情報を聞き出すためならば力で分からせようとする。
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