第三章

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 ラヴァルは治癒能力が発現する以前にも異種族を助けるため体を張って守ったことがあるのか? ホルドは異種族から情報を聞き出すためならば何をしてもいいと思っているように見える。それが許せずに割って入った結果、右目を負傷した?  やはりおかしな男だ。何て優しい奴なのだ。もしそうならば、私は自分を許せない。ラヴァルを見失わず迷子にならなければ、戦闘に巻き込まれることはなかった。  ラヴァル……私はお前の言葉を信じるからな。私はフードを深く被り直す。 「そんなことはさせん……うっあぁぁっ……」  ラヴァルの顔面を目掛けて振りかざされた戦斧。私は急いで飛び込んでその一撃を受ける。  瞬間、ぶちぶちと肉が断ち切られる音が脳裏に響き、左目の視界は赤黒く染まり次第に何も見えなくなる。あまりの激痛に息はできず悲鳴をあげることすらできない。  ただ私の怪我はそれだけ。ラヴァルはローブが私を守ってくれると手渡してきたが、その言葉は本当だった。ラヴァルが使用している物なのだ、防護用の素材でできているのだろう。それは多少だが威力を吸収し勢いを殺した。おかげで顔が半分になることはなく左目だけで済んだ。  これでホルドの隙ができたはず。後はラヴァルに任せるだけだ。 「なっ、邪魔しやがって!!」  私の行動を予測できず呆気にとられているホルドの動きが止まった。 「やれ……ラヴァル……!!」 「お前は害でしかない。懺悔しろ」  既に立ち上がっていたラヴァルは腰に差している剣を抜き、ホルドのヘルム目掛けて叩き込む。剣の重圧とラヴァルの力も相まってヘルムは凹み、ホルドは体勢を崩す。  大きな音と共に倒れ込んだホルドを見るなり、ラヴァルは凹んだヘルムに向けて追い打ちのように剣を突く。すると、ホルドの叫びと共にその大きな体はまったく動かなくなった。  おそらく命までは奪っていない。しかし、そのヘルムが顔にめり込み、しばらくは動けないほどの重傷を負わせることには成功しただろう。 「ぐっ……!! いだっ……!!」 「応急処置だ。我慢しろ」  ラヴァルは自分の片側マントの一部を斬ると、私の左目に巻きつける。かなり強く締めつけているせいで痛みは増すものの、止血をしてくれているのだ我慢するしかない。 「逃げるぞ」  そう言うとラヴァルは私のことを担ぎ上げる。  力が入らずに体力もない今はラヴァルの行動に感謝しかない。安堵の息を吐き出すと、緊張が途切れて意識が朦朧とし始める。  後はラヴァルに甘えよう。私は何も言わずに奴に体を預けると力無く右目を閉じる。
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