第三章

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  * 「左目は完全に使い物にならないな」  数日が経ちそれこそ痛みは引いたが左目が治ることは無かった。もしくは私の治癒能力は半端なもので、ラヴァルと違い回復までに時間が掛かっているか。思えばヴィレンスに重傷を負わされた時は三年も眠っていたのだ、その可能性が高い。  閉じた傷口を指でなぞる。近付いているのか遠退いているのか、左眼には分からない。 「すまない」  いつもは表情が変わらないラヴァルの声色はいつもより低く、とても悔しそうな顔をしている。  ここまで奴の感情が露わになっているところを初めて見た。 「何故お前が謝る。悪いのは勝手に見失った私だ。それに体力不足のせいで逃げ切れなかったのもある」 「もっとお前に歩み寄れば起きなかったことだ。痛い思いをさせてしまった。そんな傷まで負わせて」 「心配するな。いずれ治るはずだろ?」  私は自分が思っているほど、自分の存在が分からなくなっている。ラヴァルに初めて湖で会った頃から? イアラが裏切りヴィレンスが私を監禁した頃か? 日に日に自分がおかしくなっている。  禁断の果実がどれほどの影響を及ぼしているのか不明だが、死ぬことのできない体はどれだけ痛めつけられても治癒が働く。  ただ、そのおかげでラヴァルを守ることができた。助けてもらってばかりだが、ようやく一つ返すことができた。あの一瞬に自分の能力を受け入れて、勇気を出して盾になることができたのだ。 「それに私の左目が使えなくとも、お前の左目がある。逆に言えばお前の右目が見えずとも、私がその代わりになれる。丁度、右と左が一つずつ無事なのだ」 「エルリテ」  心臓が跳ねる。急に名前を呼ばれて驚いてしまう。  思えばラヴァルはいつも私を「お前」と呼んでいた。あまり気にしていなかったし、別にそれを受け入れていたのだ。だから、不意に名前を呼ばれて嬉しいと思ってしまった。 「俺は人間と異種族がもっと手を取り合うべきだと思っている。こんな争いはすぐにでも終わらせて共存する道があると」
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