第三章

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 手を伸ばしそれを掴み取る、そして急いで少年のもとへ戻る。  その時、もう既に少年の息は途絶えていたのかもしれない。それでも私は果実を齧り、それを少年の口へと運ぶ。何度も何度も……そして私はそこで気を失った。  激しい雨の中に走り回ったことが原因で熱でも出たか、それとも果実の力が子供の私にはそれほどまでに大きなものだったからか……理由は分からない。  結局、少年がどうなったかは不明。でも、今ならその少年がラヴァルだったと分かる。  そうか、生きていたのだな……。よかった……と素直には喜べない。何も知らなかったとはいえ、ラヴァルに死ぬことを許されぬ不死の呪いを与えてしまったのは私だった。奴に酷なことをしてしまった……。  ふと、肩をとんとんと叩かれる。そこで私は気が付いた、まだ唇が重なり合っていたことに。私は慌てて顔を離すと、奴を真っすぐに見ることができなかった。 「山耳族はこういうことをするのか?」 「だっ、黙れ! お前を信頼したということだ!!」 「そういうものか」  ラヴァルは先ほどまでの悔しそうな表情とは違い、いつもの起伏のないものへと戻っていた。  でも、今はその表情のほうが落ち着く。それほど冷静でいてくれると、かえって私も息を整えることができる。このことを伝えるべきかどうか心が揺らぐ。もしもこのことをラヴァルが覚えていなければ……真実を知ってしまえば私を軽蔑するだろうか?  世界でたった一人、私を知っている人間に嫌われたら……。私は今それが嫌だと思ってしまった。自分の罪を隠して嫌われないようにするのはあまりにも都合が良すぎる。 「……思い出したのだ。禁断の果実を食べた時のことを。私は禁忌を犯していたのだ」  私にそれを隠しきることはできない。 「幼い私は……ラヴァル……貴様に……」  言い淀む。せっかく、奴に信頼を伝えたのにそれが崩れる可能性だってある。そうか、私はこの男との関係を断ちたくないのだ。まだそれほど長く一緒にいる訳ではない。知らないことだって沢山ある。それなのに、この男に嫌われたくない、むしろこれからも関係が続いていけば嬉しいとさえ思っている。  人間だから山耳族だから……もはやそういった種族の壁は私にとっては関係ない。異種族に偏見を持たない男……ならば私のことだって受け入れてくれる?  だからこそ、私は真実を伝えるのに迷いを見せてしまった。 「……知っている。エルリテ、俺は感謝している」 「覚えているのか?」
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