第一章

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 山頂の果実。イアラの言っている果実の話は、山耳族の間では御伽話として語り継がれているものだ。子供の頃なんて毎日のように聞かされた。だから嫌でも内容を覚えることになる。  山耳族の住む山頂では『禁断の果実』がある。  この禁断の果実を齧れば不老不死になり絶対の幸せが訪れる……が山耳族ではいられなくなる。そのため、この果実を齧ることは山耳族への裏切りとなるため禁じられている。ただこの禁断の果実を見たことがある山耳族はいない。ほとんど言い伝えのようなもの。  簡単にまとめればこういった内容だ。当然、私も話を知っているだけで実際に見たことはない。 「禁断の果実の話。知らないわけがなかろう」 「そうだよな」 「何故またその話を」 「結婚するとなれば、一人前の山耳族として認められたってわけじゃん。だからこそ山頂の果実……禁断の果実のことが気になってさ」  軽い声色でイアラは言う。その瞳の奥からは興味とワクワクといった感情が読み取れる。  御伽話、言い伝えとはいえ気にならないかと言えば嘘になる。実際にあるなら見てみたい気持ちはある。  しかし、流石にそれを食べようとは思わない。私は山耳族の長の娘だ。私は生まれてからその肩書を背負ってきたわけだ。もし父が亡くなった場合、私が村を引っ張っていかなければならない。  そう考えると禁断の果実なんて、あろうがなかろうが近付くべきではない。 「待て。もし探すと言っても私は反対するからな」 「えぇー……まぁ、そう言うだろうとは思った。本当にエルリテは真面目だよね」 「私は長の娘だからな。これでも山耳族の未来を背負っている。それに、イアラ。私達はもう立派な大人だ。御伽話でありもしない物を探すなんてことはやめろ」 「そうかよ。じゃあ、俺だけで探すからいいよ。もし見つけても教えねぇからな」  まるで子供のように拗ねるイアラは私の注意なんてまるで聞いていないようだった。  イアラという男はどこまでも明るい奴だが……山耳族としての想いがどこか軽く、言葉にも重さがない。そこだけはいつも気になってしまう。
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