最終章

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「夜になったら出るぞ」 「私が言うのもなんだが、夜の山道は危険だ」 「そのためにエルリテ……お前がいる」  私には私のできることか。  生まれてからずっと山にいたのだ。三年ほど留守にしていたぐらいでその感覚は忘れないだろう。  遠くの音を拾える尖った耳……危機察知できれば無事に山頂へ辿り着き、大樹のもとまで行ける。私の得意分野なのだ、流石に自信がある。 「うむ、任せろ」  日が沈むまでの間、何を思う? 私は夜に向けて一度眠ることにした。   *  それほど多くない荷物を背負い、夜の山へ向け歩みを進める。  私はラヴァルの用意してくれたサイズの合うフード付きローブを身に纏っている。深緑のローブは一見は普通の衣服だが、前回の物よりも斬れにくい頑丈な物らしい。耐久性が上がった割には、着ていて重さを感じない。むしろ身軽で私好みだ。  ラヴァルの判断は正しかったようだ。この夜の遅い時間帯であまり行動している者はいない。裏切り者の烙印を押されたラヴァルのもとへ騎士団が攻めてくる……なんて心配をしていたが、そういうことも起きなかった。  ただし油断はできない。いつどこで自分達が監視されているか分からない。いつも以上に聞き耳を立てて、周囲の音を聞き逃さない。 「ラヴァル。大樹を燃やすと言っていたな。具体的に策があるのか」 「大樹の根には核となる部分が存在している。何度か山頂に行き、それを確かめていた」 「私と湖で出会っただろう? あの時に人間の貴様がいたのはそれが理由か」 「そうだ。ただし、その核をまだ見付けられていない」  だとすれば話は早い。人間の街から山頂までの道ならばラヴァルのほうが詳しい。もし襲撃に遭ったとしても、撒きながらルートを構築して目的地へと行ける。それに、山に着いてしまえば感覚的に道が分かる。お互いの地の利を活かせば何とでもなる。  それよりもだ。大樹の根といえば私が果実を発見した場所。あそこに核なんてあっただろうか? 何度も足を運んでいるがあれ以降、根に近付いたことはない。  何故私は根の部分に行くことがなかった? これも果実を食したことによる行動制限なのだろうか。ラヴァルも見ていないとなると……胸騒ぎがする。 「だいぶ歩いたが大丈夫か」 「大丈夫だ。トレーニングの効果が出ているおかげでまだ歩ける。そもそも私は山耳族であり、どれだけ山で動いてきたと思うのだ。体力には元から自信がある……この前は取り戻せていなかっただけだ」 「わかった。先を急ぐぞ」
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