最終章

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 それ以上は言葉を交わさない。それをしなくても自分の気持ちが少し上を向いたことが分かったのだ。一人だったら私は踏み出せなかった。でも、今ではこの男がいる。私が挫けそうになっても、心が折れそうになっても、きっと支えてくれる。  私はラヴァルの手を強く握り返す。心の準備ができた。  私達はまた歩を進める。   * 「これが惨状か……」  山耳族の村……だった場所に到着した。そこに面影はない。 私が住んでいた家や、村の集会所、あらゆる場所は荒らされて倒壊していた。木々が生い茂りそれは建物だったものに侵食している。  結婚の儀式がある日に襲撃され、そこから次々と壊されていったのだろう。そしてラヴァルの言うように、禁断の果実の情報が前よりも流れてしまったせいでここは余計に荒れ果てた。  私は自分の家があった所に近付く。何も残っていないことは分かっているのに。 「これは……」  倒壊した家の中、わずかに光る物が埋まっているのを見逃さなかった。私はそれを掘り起こして手に取る。 「懐かしい物だ……こんな物が残っているなんて」  それは父から譲り受けた鈍色の指輪。山耳族の守り手として認められた時に渡された物。それまであまりに厳しく育てられてきたせいで、これを受け取った時も喜べなかった。  何故この世に生を受けてからこんな任を与えられたのか、本気で疑問に思っていた。周りの子供が遊んでいる時も、私にはそんな時間も与えられずひたすら鍛え上げられた。おかげで守り手として仲間達からは受け入れられ、感謝されるようになった。だが、あの時に思っていた不自由さは忘れられない。あの頃の時間はどう頑張っても返ってくることはないのだから。  父が苦手だった。だから、この指輪を一度も身に付けなかったのは私の些細な抵抗。でも、こんなことになるなら指にしておけばよかったと後悔する。こうしてこの指輪が残っていることはもはや奇跡だ。 「やっぱりいるじゃねーか!!」 「なっ……」  間一髪。私は突然に振り下ろされた一発を、体を投げ出すような形で避けることができた。感傷に浸っている場合ではない。これまでの殺気を放っておきながら危機察知が反応しなかったのは、コイツが息を殺して気配を隠していたということだ。
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