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その隙に地面に刺さっているラヴァルの剣を抜いて駆ける。
「ラヴァル! その男との決着をつけろ!!」
「確かに受け取った」
「ちっ、鬱陶しい弓が……! でもよぉ、効かねぇんだよなぁ!! おい、来いよラヴァル!!」
弓の雨を受けてもなおホルドは戦斧を構える。他の連中に比べて頑丈な鎧なのだろう、ダメージが通っているようには見えない。憎たらしいほどに堂々としているホルドはラヴァルを真っすぐに見据える。
ラヴァルも剣を持ち直すと、いつでも動き出せるように体勢を作る。何があっても割り込めるように私も短剣を手に忍ばせる。
「この右目の傷のおかげだ」
「ははぁ、俺もこの前のヘルムの礼を言わねぇとなぁ!! おかげで顔中に傷が残っちまっただろぉ!!」
「片目でしか見えない世界。お前の筋は単調すぎる」
ホルドの一撃をラヴァルは避けなかった。僅かな距離、寸分だがそれは空を斬っていた。興奮しているホルドの力みをラヴァルには見えていたのだ。
すぐさま体勢を立て直そうとするホルドだが、既にラヴァルは心臓を目掛けて剣を向けていた。
「果実に狂われた人間。お前が秩序を乱す」
「はははっ、裏切り者の言葉なんざ……」
言葉を遮るようにして、躊躇いもなく剣は鎧を貫いた。夜の帳に鮮血が舞い、それ以上にホルドは言葉を紡ぐことはなく衝撃音と共に倒れる。
ラヴァルは自分の右目を指でなぞる。ラヴァルにとってホルドは右目に傷痕をつけた張本人。奴はその屍を見て何を想い、何を実感している?
私はその立ち尽くすラヴァルをよそに辺りを見渡す。私達を囲んでいた荒くれ者はいつの間にか全て片付いていた。おそらく逃げ出した者もいるだろうが……。
それよりも、あの香水の匂いの正体を……真実を知りたい。既に多くの血と匂いが混ざりあい、一つの香りだけを嗅ぎ分けるのは難しい。
可能性の話ではあるが、山耳族はまだいる。今はそのことを知れただけでも希望を持てた。本当にいるのならば、この全てを終わらせた時に……探すことにしよう。
「ラヴァル、先を急ぐぞ。これだけ騒いだのだ、果実を狙う他の連中が来るかもしれん」
「わかった」
荒れ果てた村、昔からは想像もできないほど戦地と化してしまった。それでも僅かな生き残りがいるとすれば、またここを復旧して山耳族の村を作ればいい。私はまだ山耳族の守り手としての資格があるだろうか?
父から譲り受けたこの指輪を人差し指にはめると月に照らす。鈍色はより一層に輝き、私はその光を右目に焼きつけた。
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