最終章

10/14

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
  * 「この大樹を見るのも久し振りだ」  山頂の最深部、堂々と大樹はそそり立つ。山耳族の守り手として何度もこの目で見てきた場所。  こんなものが禁断の果実を生み出して、様々な者を狂わせてきた。もはや山耳族の間に言い伝えられている御伽話なんかではない。それは実在して、欲望に忠実で勝手に争いを始める者達をせせら笑うようだった。 「ラヴァル……私はここへ来て良かった。失くしていた記憶の断片を取り戻し、山耳族の生き残りがいると分かった」 「そうか」 「ラヴァル。大樹を、果実を始末して終わらせるぞ」 「最初からそのつもりだ」  ラヴァルは振り返ることなく大樹へ向け歩き始める。私もその背中を追う。  そうだ。ここまで来ることができたのだ。目の前にあるこれさえ消してしまえば、この世界は変わるかもしれない。でも、一つ不安があるとすればあの追憶について。もしこのまま同じようなことが自分にも起きてしまったら……私は何も成し遂げる事無く永遠を生きなければならぬかもしれない。  いや、今はそんな暗いことを考えるべきではない。今の私にはラヴァルがいるではないか。もっと自信を持つべきだ。息を大きく吸って気持ちを落ち着かせる。まだ戦いが終わったわけではない、これからが本番なのだ。  村の喧騒とはうって変わり、静寂が辺りを包む。僅かな月明かりだけを頼りに、その入り組んだ根の方へ歩みを進める。常に周囲に目を配り、果実を狙う外敵がいないかを確認する。  今の段階で胸のざわつきが落ち着かない。この先にはとてつもなく大きな力を感じる。それは人間でも、異種族でもない大樹の溢れ出る存在感が引き起こしているものかもしれない。  そして、身の毛もよだつほどの一つの気配に寒気がする。思わず歯が震えてしまうような、それほどまでにおぞましいものを感じ取ってしまった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加