最終章

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「ラヴァル……アイツがいる……」 「おや、もう気付かれてしまいましたか」  大樹の根元、深紅の蛇目が暗闇から私達を見ている。血でまばらに染まったスーツに身を纏った不気味な男……ヴィレンス・クエルが私達を迎え入れるように立っている。そして奴の後ろ、大樹の根元には何者かがいる。正確には死んでいるようで生きている……? 微かな気配を感じるが、周囲が暗いせいでその姿をハッキリと確認できない。  この寒気の正体は、根底に染みついている監禁生活でのトラウマが引き起こしているもの。どうしてもあの時のことを思い出し、同族の肉を食わされ、両親の悲惨な姿を思い出し足がすくんでしまう。 「何故、何故に貴様が生きているのだ……!!」 「お人形ちゃん、お久しぶりです。覚えていないのですか? 僕が最期に言った言葉を」  この男の最期……ラヴァルが心臓を貫いたその時に、奴は清々しいほどの笑顔で「また会いましょう」と告げていた。  その時の奴の表情でさえ、私の脳裏には焼き付いている。 「その様子であれば覚えているようですね。僕はアナタに愛を受け止めてほしいので、こうして舞い戻ってきたのです」  ヴィレンスは笑顔を浮かべると、私の方へゆっくりと歩き始める。あの時と違い体は自由に動かせる……それなのに奴のその瞳から目が離せない。体がいうことを効かずに、ただ立ち尽くすことしか叶わない。 「近付くな」  ラヴァルが間に割って入ると、剣で奴を斬りつける。それは確かに奴の肩から胴体に向けて刃が入っていった。そしてヴィレンスの血液が宙に舞った……しかし真っ二つになることはなく、紡ぐようにして腰と胴が繋がっている。絶え間なく斬り付けていくが、やはりヴィレンスは喜んでいるようにしか見えない。  まるであの時の私と同じようで、何度斬られても奴の部位を切断することが叶わぬといった具合だ。 「どうです? お人形ちゃんに血を注入しつつ、何度も吸血をしていたのです。おかげで、アナタに心臓を貫かれたあの時も治癒の能力が働いてくれたようです。ここまで回復するのに相当な年月を費やしましたが……」 「何度でも斬るまで」 「アナタにも随分と愛を分けてもらいましかたからね。お返しをしなくては」  剣が刺さったままのヴィレンスは、自分の体が斬られていくことも構わずラヴァルの首筋向けて顔を近付ける。鋭い牙が触れるその瞬間にラヴァルは剣を引き抜いて、ヴィレンスの腹を蹴り上げる。
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