最終章

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「私の半端な治癒では貴様を満足させられないのでは?」 「その半端が良いのです。この世に完璧なものなどない……だからこうやって何度も研究して、新しい発見をするのです。それに治癒に時間が掛かるということは次に目が覚めるまでの間に何を試すか、どんな愛し方があるか……それらを考えるだけでも楽しい。僕の愛を受け止めきれるのはアナタのその半端な果実の力のおかげ。散々、愛されてきた……だから今度は僕が愛を注ぐ番。色々な種族に試しましたが、耐えられる者はいなかった……だからそれに応えてくれるアナタが必要。どれだけ壊しても壊れることのないアナタが」  ヴィレンスは狂気にも満ちた笑い声をあげる。  この男もまた可哀想な存在だ。散々な目に遭い、大事な何かを壊されてしまった者。歪んでしまった奴は、こういうことでしか感情表現ができないのだ。  だから、私を痛めつけることに快楽を覚えた……奴はそれを愛だというが、そんなものが愛ならば理解したくない。 『殺して』  何かが聞こえてくる。正確には私の脳内に響き渡る。 『大樹に飲まれた私を……』 「何者だ」  私の問いにそれ以上、言葉は返ってこなかった。どこかで聞いたことのある声……すると私の果実のピアスは共鳴するように振動する。まるで何かを知らせているようで、私は直感的に分かってしまう。  さっき感じた微かな気配。その存在がずっと引っかかっていたが……それは、夢で何度も見た追憶の持ち主だ。  そして、彼女はそこにいる。ヴィレンスの後ろにある大樹の根。そこに取り込まれ、今もなお生命を吸われているのだ。 「どうしたのですか?」 「余所見をするな」  瀕死のラヴァルはその立ち上がることすらも困難な体でヴィレンスの体を大樹の根まで押し込む。おそらくラヴァルも感じ取ったのだろう……彼女の声を。 「くっ、離しなさい」  ヴィレンスはラヴァルの首筋に牙を突き刺す。しかし、それでもラヴァルは奴を離さない。  これが最後の好機……しかし、このままだと私はラヴァルごと……。 「エルリテ!! 俺ごと貫け……!!」
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