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ラヴァルの必死に荒げた声が聞こえる前に私は駆ける。家を出る前にラヴァルから受け取った短剣を鞘から抜くと、その刃にはラヴァルのしていた果実のネックレスが埋め込まれていた。
「ヴィレンス……貴様は災厄だ。だが、貴様も被害者の一人……これが私の愛の答えだ!!」
ラヴァルの背中に短剣が突き刺さろうとするその時、短剣は黄金色に輝き、私のピアスも呼応するように鈍色に光り出す。刃先には果実を初めて見た時の異様で複雑な光が纏わりつき伸長する。
元は一つの果実。それが今、共鳴して一つになった。
そのまま刃はラヴァルの背中を通し、ヴィレンスの心臓を貫通……そして大樹の根まで突き刺さる。
『ありがとう、果実を殺してくれて。果実を守ってくれて』
また声が響く。それは思いつめたような諦観したものとは違い、安堵そのもの。確かに感触があり、まるでもう一人を突き刺したようだった。
私は大量の鮮血を浴び、右目の視界は赤く濁る。
その瞬間、大樹の根は煉獄に包まれて燃え始める。持ち手も急速に熱を帯び、私は息を乱しながら思わず短剣から手を放す。
「これがアナタの愛ですか……。大事な者を犠牲にしてまで……」
ヴィレンスは心なしか安らかな表情を浮かべると、そのまま目を閉じる。それ以上、奴からは危機察知の能力が働かなかった。
「ラヴァル……! 今、助ける……!!」
短剣に手を伸ばして握り締める。それはもはや熱せられた鉄板のようで手の中で白い煙が上がる。
「待っていろ……待っていろ……!!」
強く握ると皮膚が焼ける臭いが鼻をつんざく。手の平が音を立てて爛れていく。煉獄は既に大樹だけではない。私達の周りを囲むようにして勢いを増す。
熱い……熱い……。全身が焼かれていく……耐え難いほどに……。
ようやく大樹に、果実に……決着をつけられたというのに……。私はこの先のことを見届けられないのだろうか?
ヴィレンスからは返事がない。短剣を握ったまま、呼吸が苦しくなる。もはやくっついてしまっているせいで、この場から動けそうにもない。
そうか、果実に手を出した者の最期はこうなるのか。
段々と意識が遠のいていく。いつか求めていた。こんな苦しみを味わうならば、いっそ死んだほうがマシだと。それは今も変わらない。
いっそ、早く楽にしてほしい。
最後にもう一度だけラヴァルの顔を見たかった。
空いた手でラヴァルの体を探す。それは少しだけ冷たくて、温かかった。
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