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「……なん……だ……?」
声が聞こえる。この耳に届くか届かないか、それほどまでに微かなもの。私は尖った耳に手を当てる。
「また泣いているのか」
姿を見て私は駆ける。よろけながら、息を乱しながら。
「ラヴァル……」
左手の甲、右肩、両膝には空洞ができているにも関わらず、ラヴァルはゆっくりと這う。私と同じように火傷の痕はあるものの、確かに呼吸をして私の前にいる。
「生きていたのだな……」
「撃ち抜かれた部分以外は治癒が働いたようだ」
私が短剣で突き刺したはずの背中の傷は確かに塞がっていた。ヴィレンスの放った特別製の弾は、撃ち抜いたその部分だけを殺してしまうものだったようだ。
心臓が高鳴る。さっきまでの不安がこの空のように晴れやかなものへ様変わりする。私は泣き声をあげながらラヴァルを抱きしめる。
「まるで子供だな」
「うるさい……。今はこうさせてくれ……」
「……俺はもう立てない体のようだ」
「ならば、私がラヴァルの体を支えてやる。手となり足となり死ぬまで面倒を見る。そして、果実のなくなった世界でゆっくり私と休むのだ……」
「それもいいかもしれん」
孤独な世界ではない。大事な人が傍にいる。
私はいつまでも温もりを感じながら、喜びを噛み締める。
狂わされた世界が元通りになるまで何年掛かるだろうか? でも少なくとも私達は平穏な場所でいつまでもそれを見届けるだろう。
山耳族と人間……異種族が手を取り合って一つの災厄を始末できたのだ。後はどれだけ変化していくか。
今はただ、この大切な存在をいつまでも抱きしめる。心の温もりを感じながら、幸せが訪れる。
大樹だったものが風に吹かれ、微かに揺れる。鈍色の灰が舞う。
それはこの世界の新しい一日を祝福しているようだった。
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