永遠(とわ)の蛍

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夕食後、永遠は自分の部屋に戻ると、ネットの動画で当時の様子を見た。両親の辛さを分かち合いたかった。椅子に座り机に肘をついて、スマホを覗き込む。  砂浜を飲み込み、川を逆流する水のうねり。  木々が見えなくなるほど、高く迫る海。  生き物のように街を浸食する、黒い津波。  ほんの一瞬で押し流される車や家。  その跡に残された、瓦礫の山。  喪われた一万五千人以上の命……。   スマホの小さな画面だから、まだ恐怖に打ち勝てるだけかもしれない。何度も見るうちに、永遠の大きく見開いた眼の縁に涙が溜まった。    十三年近く前、この画面の向こうに永遠と家族がいたのだ。至る所に瓦礫が散乱し、海水混じりの泥にまみれていた。電気は止まり、凍える夜には雪が舞っていたという。  岸野家は家ごと流され、蛍の形見となるものはほとんど残っていない。それに当時はスマホがあまり普及していなかった。小さい蛍とのメッセージのやりとりの記録もなく、両親は後悔していたようだ。  永遠が生まれるずっと以前、関西でも阪神淡路大震災という巨大な地震があったそうだ。それからも地震は日本各地で起こり、大きな被害が出ている。    今年の元旦、石川県の能登半島を襲った震災に、両親と蛍は言葉を失うしかなかった。突然襲った自然災害に為す術もない人々が、かつての自分たちと重なって、一度ふさがった傷口がまた開いたように心が痛んだのだった。    
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