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蛍はどんな子だったんだろう。
永遠は、全く違う動画に指を伸ばした。
人気アーティストの切ないバラードが、疲れた永遠の耳に浸透した。ささやかな日常を改めて確認する。涙は乾かないけれど、慰めてくれるようで気持ちが楽になった。
この幻想的で、囁くような歌声が好きなの。蛍にも聞かせたかったな。
永遠は八歳違いの蛍を、姉と呼んだことがなかった。そのわけを小さい頃は分からずにいた。でも無意識に気付いていたのかもしれない。
心の距離が近づけば甘えたくなって、蛍がいない現実が辛くなってしまうと。
永遠は白い指で、スマホのアルバムに入った写真をタップする。
親戚が病室で撮ったそうだ。蛍の肩に手を置いた父は、今より幸せに映る。蛍は母の大きなお腹に小さな手を当てている。永遠を宿した母はとても綺麗だ。
家族一緒に写った唯一の記念写真に、永遠は語りかけた。
ねえ、蛍。これまではどうすることもできなかった。けれど、十三歳になればきっと自分で決められるよね。
あの日に戻れるかな。
だって、蛍に会いたいから。
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