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あいつは今頃どうしてるだろう…。
山辺晴康は、現在66歳。
年金で生活している。
弟夫婦と姪と暮らしていて、なんの不自由もないのだけれど、晴康には忘れられない人がいた。
鈴木智男。
今から40年くらい前になるだろうか。
リコー電子というところで働いていた時代の友達。
『モト君』があだ名で、晴康と似ていて顔が長くて、黒縁メガネをしている。
モト君はリコー電子を辞めたあとは、静岡の島田市というところに引っ越していった。
あれから音信不通で…。
あんないい友達はいなかった。
会いたい…。
ある日その話を姪の美沙に相談したら「手紙でも書いてみたら?」と言われた。
「伯父ちゃん、住所は途中まで知ってるんでしょ?だったら届くはずだよ」
そう言われて、女物の可愛いレターセットと切手を渡された。
姪に言われて、晴康は今の気持ちを届けたいと思い、気づいたらペンを取っていた。
届けたい、この想い。
『リコー電子時代の山辺です。覚えてるかな?』
『いつだったか、ふたり同じ黒縁メガネをしてきて君に真似したね、と言われたことがあったね』
『仕事の休み時間にベンチでみかんを僕にくれたことがあったね。その様子を見て皆がお前たちゲイかよ、と言われたことがあったね』
自分なりに想いを込めて手紙を書いた。
そしてポストへ入れた。
届きますように。届きますように。
だが、手紙はうちに舞い戻って来てしまった。
住所不明で。
モト君…君は一体、どこにいるんだい?
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