6人が本棚に入れています
本棚に追加
地面にはどろりとした黒い血が溜っている。ロゼリアはふと顔を拭った手に目をやった。そこにも黒いものがついている。どうやら顔に感じた飛沫は、魔物の血だったようだ。
「申し訳ありません、血飛沫がついてしまいましたね」
男は白く清潔なハンカチをロゼリアに手渡した。ロゼリアは礼を言ってそれを受け取ると、顔や手、髪をぬぐった。拭いた後のハンカチはあちらこちらに黒いシミがついている。
「あのこのハンカチ、後ほど洗ってお返し致します」
そう言ってロゼリアがハンカチを丁寧に畳んで鞄に入れようとすると、男は「お気になさらず」と言ってその手から取った。
「あなたに血飛沫が当たってしまったのはこちらの不手際ですので、どうぞお気になさらないで下さい。
それより早いところここから移動しましょう。再び魔物が現れたら面倒ですので。歩けますか?」
男は再びロゼリアに手を差し出す。手を引かれなくても歩けたが断るのも申し訳ないと思い、ロゼリアはその手を取った。男はロゼリアの手をやおら握ると歩き出した。ロゼリアに合わせてか、歩調を緩めてくれている。
ロゼリアは魔物の傍を通り過ぎる時、ちらりとそちらに目を向けた。血だまりに倒れ込んだ魔物の体からは内臓も飛び出ており、悪臭が鼻をついた。思わず咳き込む。
「大丈夫ですか」
足を止め、男は心配気にロゼリアの方へ顔を向けた。
「馬車に飲み水を用意しておりますので、もう少しだけ我慢できますか」
ロゼリアは咳をしながらも、幾度が頷いた。男はそれを確認すると、先ほどより歩調を早めて歩き出す。それに遅れまいとロゼリアは必死でついていった。
幾分咳が落ち着いた頃、森の近くに二頭立ての馬車が停まっているのが見えた。
最初のコメントを投稿しよう!