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見えた途端ロゼリアは足を止めてしまった。屋根付きの四輪馬車は昏森の門まで乗って来たものと似ていたが、しかしそれを引く二頭の馬は異様だった。艶やかな黒い毛並みの馬には、その背中から一対の翼を生やしている。馬たちは小鳥のように翼を少しだけ広げ、毛づくろいをしていた
「どうされました?」
突然立ち止まったロゼリアに青年が尋ねる。
「あの馬も、魔物なのでしょうか」
ロゼリアの問いかけに青年は「ああ」と馬の方へ顔を向けた。
「ええそうです。ですが先ほどの奴のように襲ってこないのでご安心を。さあ、早く屋根のある所に入ってください。雨で聖女様に風邪を引かせてしまったとあっては、後で上の者からどやされてしまうので」
「あ、はい」
ロゼリアは慌てて早足で馬車に近づいた。そんなロゼリアを馬たちは興味深そうに眺める。ロゼリアも澄んだ瞳を向けてくる彼らを見つめ返そうとして、青年に早く乗るよう促された。
「聖女様、下に置いてある木箱の中に水の入った瓶が入っているので、そちらを召し上がってください」
青年の言う通り座席の足元には、蓋のついた木箱が置かれていた。蓋をとると、中身の入った瓶が六本入っている。
「あの、カップとかは…」
「瓶から直接飲んで下さい」
ロゼリアは戸惑ったが、青年はすぐに馬車の扉を閉めて御者台の方へ行ってしまった。ロゼリアは逡巡したが、綺麗な水で口を潤したい気持ちが勝り、瓶の蓋をとると直接口をつけて飲み始めた。思っていた以上に喉が渇いていたのか、あっという間に瓶の中身を飲み干してしまった。
清らかな水を体に入れ、少しすっきりとした気持ちになった。それと同時に今までどこか熱に浮かされたようなぼんやりとした感覚が、急に鮮明になる。雨に濡れそぼった体の感覚も戻り、唐突に寒さを感じた。
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