一章 偽りの聖女

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                  *  ロゼリアは王都の近隣に領地をもつ、モンフォール家の息女だ。モンフォール家の領地は農耕、畜産が盛んであり、王都にそれら農作物や畜産物を卸すことによって、大きな利益を得ていた。またロゼリア の父親であるジルベール侯爵が有する私兵団は国の中でも一、二を争う強さを誇り、王家からの信頼も篤かった。  そんなモンフォール家の名を最も有名にさせているのが、聖女の存在だ。聖女は聖なる力で人々の傷や病をたちどころに治すことが出来き、また、その身の内から出した聖なる火を使い、魔物を打ち滅ぼすことが出来る。  モンフォール家はこういった力を持つ聖女を、過去幾人も輩出してきた。ジルベール侯爵の母でありロゼリアの祖母であるロゼッタは、特に力の秀でた聖女だと言われている。ロゼリアが生まれた頃には彼女の力は衰えてしまっており、ロゼリアにとっては優しい祖母としての記憶しかないが。  そんなロゼッタはジルベールの他に子供を二人産んだのだが、皆男児であったため、しばらく聖女が不在の時期が続いた。聖女の存在はこの国の者にとって希望の光であり、王家の者も含めて皆聖女の生誕を渇望していた。  そんな時期に産まれたのがロゼリアだった。だがしかしロゼリアには、聖女の力は受け継がれてはいなかった。国民の落胆は相当なもので、期待に応えることができなかったジルベールは、実の娘であるロゼリアを憎み疎んだ。  ロゼリアの母は元々体の弱い人で、ロゼリアを産むとすぐに亡くなってしまった。母は亡くなり、父に憎まれ、味方のいないロゼリアだったが、ただ一人体の衰えた祖母のロゼッタだけが、ロゼリアを愛してくれていた。しかしロゼッタも、ロゼリアが六つの時にその生涯を終えた。  ロゼッタが亡くなってから半年後、ジルベールはシャルロットという若い女を後妻に娶った。シャルロットはすぐにジルベールとの子を身籠り、結婚から一年後に女の赤子を出産した。輝くばかりの金色の髪、透き通るような白い肌、薔薇色の頬、翡翠色の瞳。皆は口々に聖女ではないかと噂し合った。事実、その通りとなった。
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