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ロゼリアの腹違いの妹は『アニエス』と名付けられ、ロゼリアが受けられなかった両親からの愛を一身に受け、美しい娘に育った。アニエスは幼少期から治癒の能力に長け、幼いアニエスの元へ毎日病人や怪我人が長い列をなした。またその小さな掌から魔物を打ち滅ぼす聖なる火を出現させ、父ジルベール侯爵が有する私兵団は、その火を剣や弓に纏わせて魔物を狩った。
ロゼリアは、幼いながら聖女としての使命を果たす妹の従者として扱われた。およそ侯爵家の令嬢が身に纏わないであろう粗末な衣服で、アニエスの傍に傅いて、彼女の身の回りの世話をしていた。
「はぁ」
ロゼリアはため息を零した。
これからの自分の身の上に降りかかる事を考えると恐ろしくはあるが、同時にやっとあの家から解放されるのだという安堵感もある。
「あのまま一生、アニエスのためだけに生きていくのかと思っていたわ」
曇天を見上げながら、ロゼリアは独り言ちる。それから、これから自分が向かう国のことを思った。
———ブリクスト王国…
それがこれから向かおうとしている国の名だ。ブリクスト王国は魔族が治める国だという。今目の前に広がっている森を抜けた先に、ブリクスト王国は存在している。ブリクスト王国は他国と交流をもつことがほとんどなく、内部の情報もでまわることは滅多になかった。ロゼリアが知っていることといえば、あとは王の名が「シエル」ということだけだ。
なぜそのような国にロゼリアが行く羽目になったのか。それは半月前に王都から使者が来訪したことから始まる。使者が火急を要する件だと言うと、すぐにジルベールは人払いをして王からの玉簡を拝受した。
しばらく使者と部屋に籠っていたジルベールは、苦悩に満ちた表情でふらりと出てきた。部屋に籠っていた一、二時間の間に、一気に老け込んでしまったようにロゼリアには見えた。
ジルベールは一度使者を王都に戻すと、娘のロゼリアとアニエス、妻のシャルロットを集め、王から届いた書簡の内容を話した。
書簡には、聖女を魔族の国、『ブリクスト王国』へ遣わすと記されていた。なんでもブリクスト王国のさる御方が重篤な病にかかり、聖女の力で治癒してもらいたいとのことだった。
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