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ジルベールはいくら王の命令でも、大事な娘を魔族が蔓延る場所へは行かせられないと使者に食って掛かったが、王はすでにブリクスト王国から手付け金をせしめており拒否することはできないと、使者はジルベールに耳打ちをした。
万が一聖女をブリクスト王国に遣わさなければ、どのような報復があるかわからない。ジルベールは歯噛みしたが、しかしそれを聞いてしまえば拒むことはできない。しばし考える時間が欲しいと、使者を返したのだった。
使者とのやり取りを聞いた途端シャルロットは取り乱し、アニエスは両手で顔を覆って泣き始めた。ジルベールはしばらくそんな二人を必死になだめすかした。ロゼリアはその光景を現実感無く眺めながら、なぜ自分もこの場に呼ばれたか疑問に思っていた。
普段自分のことは使用人のように扱い、食事すら一緒の席にはいさせてくれないのに。なぜこんな大事な席に、自分を呼んだのだろうか。ロゼリアは嫌な予感がした。
「シャルロット、アニエス、どうか私の話を聞いてくれ」
怯え、むせび泣く二人にジルベールは懇願した。
「なによ」
怒りと悲しみのこもった声でシャルロットは叫んだ。
「貴方は可愛いアニエスが魔物に食べられてしまってもいいのっ?魔物を治すってそういうことでしょう?聖女の血肉を食して、力を取り戻そうとしているのでしょう?」
シャルロットの問いにジルベールは言葉を詰まらせ、返すことができなかった。
「それなら、これを行かせればいいじゃない」
シャルロットは吊り上がった目でロゼリアを睨みつける。
「私達の愛おしいアニエスじゃなく、役立たずのこれを送り込めばいいのよ」
そう言ってシャルロットはヒステリックに甲高い笑い声を上げた。ロゼリアはシャルロットから目を逸らし、ジルベールを見つめた。ジルベールは一瞬気まずそうな顔をしてからすぐに厳めしい表情に戻し、「そのつもりだ」と頷いた。
———ああ
ロゼリアは心の中で天を仰いだ。
———だから私も呼ばれたのか
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