わたしの心臓をあげる(改訂版)

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 殺風景の病室に映像を流していただけのテレビが突然大音量となった。 「今朝の七時、星間慰問団が地球に帰還し朝早くにも関わらず2000人のファンと報道陣が詰めかけました。見てくださいこの大観衆、大声援……」  ニュースキャスターの声が歓声にかき消されている。  今朝の空港の映像である。宇宙船のタラップにスターが現れたのだ。大勢のファンたちと報道陣が小旅行を終えたスターたちを迎えていた。スポーツ選手にアクション俳優、モデルに芸人や歌手、そしてアフロのギター奏者がいる。カメラはアフロの男の笑顔を大写しにする。  ぎりぎりまで近づき、アフロの男に腕を伸ばしている観衆の間には、黒サングラスに黒服のボディーガードたちが、あわよくば触れようとする無数の手から身体を楯にする。慰安団と行動を常にする彼ら黒服チームも有名であった。  わたしは目をこらした。  黒服の中に線の細い男がいる。今朝も長めの髪を後で一つに結んでいる。  サングラスの奥の目が見えそうで見えない。唇が横一文字に引き結ばれ意志の強さが画面ごしにでもわかるほどだ。部屋中に大きく広がる映像に入りこむかのように、ベッドから身をのりだした。  ボディーガードの男はジョウ。神山譲二。  たとえ、どんなにちいさな欠片であっても、わたしはジョウをみつけることができると思う。そしていつもその隣にいる凜としたポニーテールの黒服の女は……。 「またそのニュースを流しているの、まだ騒音の中にいるようだわ。耳が痛いわ」  画面の女の声がベッドの横でする。  扉を叩く音も女がわたしの空間に入ってきたことも気が付かなかった。  驚きが心臓につきささった。いきなり始まった動悸に冷汗が脇をぬらす。  わたしは恐慌をきたした心臓が鎮まるように胸をつかみ、シーツに突っ伏した。  荒い息とうめき声が漏れても自然に鎮まるのを待つしかなかった。 「……花、ごめん、驚かしてしまった?何度か叩いたんだけど、先生を呼んだほうがいいかな」  わたしの病室には、国営放送に写っている同じ黒服のポニーテールの女である双子の姉の鈴が、わたしに駆け寄りベッドに腰をかけると背中をさすってくれる。最後の言葉はわたしに投げかけたものではない。 「だいッ、大丈夫だから」  不安げに顔をのぞき込む鈴の背後には、巨大な影のように立つ男がいる。  テレビでみるよりもずっと大きい。ジョウだ。姉と常に行動を共にしている。
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