わたしの心臓をあげる(改訂版)

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 もう、髪を直すのも服を着替えるのも間に合わない。 病室の中に見られてはいけないものが出しっぱなしにしていなかったか。 あったとしても間に合わない。来るなら直前でもいいから連絡してよ、と鈴姉をなじりたい。 「この後は、スター発掘の公開オーディションを生配信いたします……」  騒音ばかりのニュースが野外劇場に切り替わった。  世界各地で才能ある若手のタレントを発掘するオーディションが行われていて、この番組ではアフロの男が一位となり、スターになったという実績があった。  画像を消す前に、メールの通知音が鳴り、テレビ映像がメールのタイトルと中身を映し出した。画面をスマホとつなげていた自分を呪いたくなる。  間の悪いことは続くものだ。すぐさま消したが、姉は見逃してはくれなかった。 「……公開オーディションにご参加いただけなかったフジサキハナ様へ。本日は、送ってくださったデモ音声のみの放送となります。審査員および100万人の視聴者からの投票により優秀者を2名に選抜することになります。本日中に結果の合否をおしらせし……?わお!あのデモテープ、予選審査に通っているじゃないの。オーディションに花が参加するのを知っていたら寄り道しないでここに来て、あの場に連れて行ったのに」  鈴姉は先生を呼ぶかどうか迷っていたことを忘れている。 「……わたしは行かない」 「俺も協力する。っていうか、今からでも間に合うんじゃないか?ここからなら高速で飛ばして10分で可能だな」  担いでも連れて行かれそうな勢いである。 「だから、わたしは行かない。鈴姉とジョウに乗せられて歌ったのが間違いだったの。審査に通っても、わたしなんかが人前にでられるわけがないじゃない」 「どうして?」  鈴は首をかしげた。  その目はとぼけたような仕草と真逆に異様に輝いていた。 「あんたは素材として抜群なんだから。なにせ容姿端麗、運動神経抜群の、この鈴の双子の妹なのよ。花もきちんと整えたらそれはそれは美人になるわよ。それに、条件の会うドナーが現れ、明日手術できるかもしれない。その時のためにチャンスを掴でおかなきゃ」 「そうだ。花ちゃん、夢をあきらめては駄目だよ。君の歌声は宇宙級だというのは俺にでもわかるよ。それにこの閉鎖空間からでるのは気分転換にいいんじゃないか」 「鈴姉とジョウのように?」
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