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幼馴染の恋人たちは来月結婚する。
二人は共に夢をみて、励まし合いながら毎日欠かさずトレーニングをして夢を叶えた。そんなふたりの未来がつづいていくことが心よりうれしい。鈴はもうひとりのわたし自身なのだから。
そんな幸せいっぱいの姉の心臓を自分の心臓と取り替えたいなどと欠片でも願うならば、わたしは自分を一生許せないだろう。
わたしができるのは、もしわたしが鈴姉だったら、と空想することだけ。
だけど本当は、ジョウの漆黒の瞳に、姉ではなくてわたしの姿が写っているのを見てみたい。いろんなことを放棄したわたしが抱けるのは、そんなささやかな願望だけ。誰にも言うこともないのだから、そんな夢を見ることぐらい姉に許してほしいと思うのだ。
姉とジョウは再び慰安団のボディーガードとして火星へと飛び立っていった。
次ぎの帰還で二人は結婚する予定だった。
そして帰還を目前にして火星での移動中に大規模な赤土の表層雪崩に巻き込まれた。
ニュースで淡々と速報される事故の死亡者リストの中に姉の名前があった。
ジョウを残して姉は、死の泥濘に首まで飲み込まれているわたしよりも早く、あっけなく死んでしまった。
姉にもジョウにもこれ以上ないほど残酷な運命だった。そして姉が慰めに約束してくれていた肉体は、とても生体移植できる状態にないという。
帰還したのは姉のスーツケースだけ。わたしは涙もでなかった。
死んでしまったのがわたしだったらどんなによかっただろう。
泣きはらした目のジョウを前にしたこの瞬間、病室で生きて息をしているのがわたしであるという事実が、愛する女を失った男をさらに苦しめていることを知った。
姉の欠陥品を前にジョウは顔をゆがませた。
今すぐお前が死んであいつをよみがえらせてくれ、となじられるほうが、気が楽になるかもしれないと思うのだ。
感情を殺した声でジョウはいう。
「……よく聞いてくれ。星間を移動する慰安団には特権が与えられている。事故に会う確率が87パーセントと高いのにも関わらず、必要とされているから。そしてこれはまったく知られていないけれど、彼らを守るボディーガードにも同じ特権が与えられているんだ。だから俺たちはクローンもつ。何かあったときの予備臓器部品として活用できるように」
「クローン……」
ジョウはクローンの鈴姉が戻ってくるから悲しむなと伝えにきたのか。
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