1話『呪いの“消しゴム”』

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■□  (水無瀬篤人.side)  ポン、とスマホが鳴った。  テーブルの上に伏せて置いていたスマホを手に取った狩矢が、画面を操作してにやりと笑う。 「進展があったよ」  狩矢はそう言って、スマホの画面を俺の眼前に突き出してくる。俺はアイスコーヒーのストローを咥えたまま、さっき見たトーク画面の新しいメッセージを読む。 【やりましたよ! 放課後に先輩を偽デートに誘い出すことが出来ました!】 【吉祥寺で先輩の買い物に付き合った後に昨日行った喫茶店に行く予定なんですけど、狩矢さん何時頃なら吉祥寺来れます?】 「篤人も行くって言っておくね」 「ちょちょちょッ」  スマホに返信を打ち始めた狩矢を慌てて止める。 「いやだからなんで俺も行く前提なんだよ」 「行かないの?」 「行かねーよ。夜バイト入ってるし」 「篤人も行くよ…っと。ハイ送信」 「おいコラ」  頬を引き攣らせて拳を握った俺を、狩矢は涼しい顔をしていなす。 「バイトの時間までに間に合わせればいいでしょ」  狩矢はにこっと笑って立ち上がると、ゴミをそのままにして行ってしまった。  あ〜くそっ…まじ腹立つ。 「この流れ何回目だよ…いい加減俺も断れるようになれっての…」  情けない自分自身にぶつぶつ不満を言いながら、狩矢のゴミも纏めてビニール袋に突っ込んだ。 ■□  狩矢と一緒に電車に揺られ、吉祥寺駅で下車する。  改札口を出ると飛鳥の姿が見えた。狩矢の方には事前に連絡がいっていたようだ。飛鳥も麗音に付き合わされているみたいで、俺はこっそり仲間意識を感じる。 「ついさっき麗音から『先輩の買い物が終わったから喫茶店に向かう』と連絡がありました」  飛鳥は相変わらず俺たちを好意的じゃない目で見ながら言った。 「そう。じゃあオレたちも行こうか」  狩矢はにっこり笑って歩き出す。俺と飛鳥は黙ったままその後に続いた。  両側に洒落たお店がずらりと並ぶ道路を歩いて行くと、昨日行ったばかりの喫茶店が見えて来る。  俺は前方を歩く黒スーツ姿の背に向かって声をかけた。 「狩矢。麗音たちが喫茶店に入る前に接触した方が良くないか?」 「そうだね。今はケーキもパフェも食べたい気分じゃないし」 「いやそういう意味で言ってねぇよ」 「あそこの路地に隠れて様子を見ませんか?」  飛鳥が指さす先を見た。目的地の喫茶店の隣に並ぶ雑貨店との間に路地がある。いい判断だ。  俺たち三人は路地に身を隠して顔半分だけを出す。左右どちらの方向からターゲットが現れるか分からないため、俺と狩矢は右側を見て、飛鳥が左側を見ることにした。 「なんか張り込みしてる刑事みたいだね」  すぐ横から狩矢が子供みたいにワクワクした小声で言った。俺は呆れた眼差しを狩矢に向ける。 「お前は格好だけなら刑事っぽいぜ」 「…あ、来ました。麗音と先輩です」  一人真面目に様子を伺っていた飛鳥の小声を聞いた俺と狩矢は、揃って左側に視線を向ける。
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