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人が行き交う中に、こちらに向かって歩いて来る制服姿の男女が見えた。麗音の腕に手を絡めてべったりしている女子高生…あの子が堀内めぐみか。確かに美人だ。
傍から見ると美男美女のいちゃいちゃカップルだが、美男の方はお疲れの様子だ。堀内の買い物袋まで持たされて、ひどく疲れた笑顔を貼り付けている。
「篤人。彼女は呪物を持ってるよ」
狩矢がいつもの笑顔で囁くと、まるで猫のように音も立てず、滑らかな動きで前に出て行った。あまりにも自然すぎて声をかけることも忘れてしまう。俺と飛鳥は慌てて後に続いた。
「やあ、麗音くん」
二人の前に立ち塞がった狩矢が、にこやかに声をかけた。
麗音があっと声を上げて立ち止まり、堀内は怪訝な顔をして狩矢を見る。
狩矢は堀内に視線を向けた。
「君、呪物を持ってるよね。それを使って隣の彼を呪い殺そうとしてるでしょ」
堀内が驚いたように目を見開く。
「な、なんのことよ…」
「誤魔化しても無駄。“呪物の匂い”が君からぷんぷんしてる」
「貴方、頭おかしいんじゃない?」
堀内が狩矢を睨みつける。
俺は狩矢の隣に並んだ。狩矢は薄笑みを浮かべたまま堀内をじっと見つめている。冷たく鋭い目つき。狩矢は確信している。その眼差しは自信に満ちている。
「“消しゴムの呪物”だよ。その呪物を“赤髪の男”から貰っただろ?」
「なんなの? そんな奴知らないわよ!」
堀内は麗音の後ろに隠れた。
「麗音くん、この人たち怖い。どうにかしてよ」
わざとらしく甘えた弱々しい声で助けを求めるが、麗音は黙ったまま堀内から目を逸らした。
麗音が俺たちの仲間だと気づいた瞬間、堀内はぎりッと奥歯を噛み締めて悔しそうな顔をしたかと思うと、後ろを向いて逃げ出した。
「あ、逃げた」と呑気な一言を発する狩矢の隣から俺は走って彼女を追う。麗音と飛鳥も俺のすぐ背後に続いていた。狩矢は知らん。
駅構内まで逃げられたら周りへの迷惑も考えて流石に追うのを諦めようと思ったが、堀内は狭い路地裏に入って行った。これは好都合というべきか、とにかく一気に距離を縮める。
「おい待てって!」
必死に逃げる背に向かって声を張った。すると堀内が急に立ち止まり、俺も慌てて急ブレーキをふむ。
肩で息をする堀内の前方に、麗音と飛鳥の姿があった。この辺りの路地裏に詳しいのか、先回りして逃げ道を塞いでくれたようだ。
「はぁ、はぁ、もうっ、もう最悪! なんなのよ!」
堀内は焦ったように後ろを振り返ってから俺の姿を見て、もう逃げ場がないことに気づくと、いきなり強気な態度になって叫んだ。
「麗音くんが悪いのよ! この私を…完璧な容姿を持つこの私をフったから! あんたのせいで私は、女子の間で笑い者にされたのよ!」
堀内は麗音を睨みつける。
「私のプライドをズタズタにした。だから仕返しに呪ってやろうと思ったのよ! ほら! これが目的なんでしょう!?」
堀内は肩にかけていたスクールバッグを開けて手を突っ込み、握った拳を頭上に突き出すと、俺たちの視界に入るようにソレを見せた。
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