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「飛鳥くん。勇利は君に“消しゴムの呪物”を渡す時に、使い方の説明をした?」
飛鳥がこくんと頷くと、狩矢は「じゃあ教えてよ」と促した。飛鳥は静かに口を開く。
「…“恋が叶う消しゴムのおまじない”とやり方は同じだと言われました。消しゴムに好きな人の名前を書いて誰にも貸さずに全部使い切ると、両思いになれるというおまじないです」
あぁ、なんか聞いたことあるなそれ。
小学生の女子の間で流行るおまじない。流行ったのは俺たちよりもっと上の世代だ。
「呪いたい相手の名前を消しゴムに書いて、誰にも貸さずに使い切ると相手は死ぬ。…そう言われました」
なるほどね、と呟いた狩矢が消しゴムのケースを外した。俺は狩矢の手元を見る。半分近くになった白い表面には黒ペンで“吉川麗音”と名前が書かれていた。苗字はほぼなくなっている。
「相変わらず勇利は面白い呪物を作るなぁ」
狩矢が楽しそうに笑う。…コイツは人間の正常なネジが外れていやがる。
「…ねぇ飛鳥」
杏菜の力ない目が飛鳥を捉えた。
「どうして先輩に呪物を渡したの? もし先輩が消しゴムを使い切っていたら…」
杏菜は最後まで言い切らずに口を閉じた。
飛鳥は暗い目をして横を見る。そこには飛鳥と目を合わせず、浮かない顔をして前髪の毛先を弄っている麗音がいた。
「それは…」
飛鳥は皮肉じみた笑みを浮かべる。
「僕以上に、先輩がこのクズ男を殺したいって思っていたから。だから譲ってあげたんだよ」
「…ハハ、」麗音が笑った。
「飛鳥にまでクズ男って言われると流石に泣くわ」
麗音はようやく飛鳥と目を合わせた。その顔は泣きそうというよりかは困っていて、なんとなくそこに嬉しそうな感情が見え隠れしている。
傍から見るとなんとも奇妙だ。幼なじみという関係性だけでこうはならないだろう。危うくて、歪。この二人も狩矢と同様に、どこか正常なネジの一部が外れているのかもしれない。
「さてと。話はこれで終わりにしようか。篤人もバイトがあるしね」
狩矢の言葉にハッとさせられた俺は、慌てて手首につけたスマートウォッチで時間を確認する。…よかったまだ余裕で間に合うな。
「飛鳥くん。これあげるよ」
狩矢がにこっと笑って、ケースに戻した消しゴムを差し出した。飛鳥は困った顔をしている。仕方なく飛鳥が手を伸ばそうとすると、横から杏菜が消しゴムを鷲掴みにした。そしてベンチから立ち上がると、少し離れた先に設置されていたゴミ箱に向かって投げる。消しゴムは綺麗にゴールした。
「ナイスコントロール」
狩矢は笑いながら軽く拍手した。
その後。俺たちは駅構内で高校生三人と別れてから同じ電車に揺られ、先に狩矢が下車して帰っていき、俺は数駅先で下車したあと急いでバイト先へと向かった。
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