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■□ (三浦飛鳥.side)
僕を真ん中にして、左右に麗音と杏菜が座っている。三人揃って電車に乗るのは随分と久しぶりだ。
電車に揺られながら僕たちはずっと無言だった。右側の麗音は長めの前髪の毛先を弄り、杏菜は腕を組んで目を閉じている。
僕は顎を上げて息を吐く。ふと見た前方のドア横にある電車広告。有名作家のミステリー小説が宣伝されていて、『僕の中にある醜い感情』というキャッチコピーが目に留まった。
…僕がしたことを、二人はどうして責めないの?
内心でそう問いかける。
特に麗音だ。こいつは先輩に呪い殺されかけた。その原因をつくったのは僕だ。僕に何か言うことがあるんじゃないか? ないとしても、今後は距離を置くことくらいは考えろよ。どうしてぴったり横に座っているんだ。
現実逃避しようと、僕は先輩に消しゴムを渡した時のことを思い出す。思い出そうとして、けど何故か記憶がぼんやりしている。
次いで“消しゴムの呪物”を“赤髪の男”から受け取った時のことを思い出そうとする。こちらも記憶が朧げだ。公園で狩矢さんから“赤髪の男”について聞かれた時の方がまだハッキリしていた。目を覚ました瞬間は夢の内容を鮮明に覚えているのに、少し時間が経って思い出そうとしても全く思い出せない…そんな感じだ。
「…僕がしたことを、二人はどうして責めないの?」
現実逃避をやめた僕の口は、ついさっき内心で呟いた言葉を声に出していた。
左右の二人が反応する。…しまったな、別に理由なんて聞きたくないのに。もう遅いけど。
「どうしてってなぁ…」
「そうねぇ…」
二人はいまさら理由を考えているようだ。呆れた…。
「まぁ俺は自業自得だしな。だから飛鳥を責める気なんてまったくねーよ」
僕は思わず麗音を見た。麗音は僕を横目に見て微笑んでいる。今までと何も変わらない見飽きたその顔に、何故か安堵する自分がいた。
「そうよ、麗音は自業自得。だから飛鳥は気にしなくていい。むしろ私はスカッとしたわ」
杏菜がいつもの調子で言った。
僕は視線を前に戻して肩から力を抜く。
「…僕たちって、ちょっと変かもね」
「だいぶ変よ」
「だな」
杏菜と麗音が同意して笑うから、僕もつられて笑ってしまった。
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