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2話『呪いの“木箱”』
■□ (水無瀬篤人.side)
桜もとっくに散った六月上旬。
日曜日の朝十一時。俺は人の波に乗ってJR町田駅の改札口を出る。前回町田に来たのは五ヶ月前、大学の友人数人ではしご酒をしたのが最後だ。町田はここ数年で昼からも飲める安くて美味しい居酒屋が増えた。そういや109…あそこいつ閉店したんだっけ。
「つーか狩矢はどこに…」
駅周りはショッピングビルが立ち並び、若者の姿が目立つ。改札付近で待ち合わせだった狩矢を探すが、黒スーツ姿の男は見当たらない。朝七時ごろ急に町田駅集合のメッセージを送りつけてきた本人がまさか遅刻じゃねぇだろな…。
改札から離れて陽の下に出る。
ゆっくり回転する彫刻のモニュメントの周りで待ち合わせをしている若者たちにまじってスマホを取り出す。すると狩矢からアプリを通じてメッセージが届いていたことに気づいた。アプリを開いて狩矢のトーク画面をタップする。
【町田天満宮】
「…ハイハイここまで来いってことな」
ただそれだけの素っ気ないメッセージに既読だけをつけたスマホを青いスカジャンのポケットに突っ込み、俺はやれやれと歩き出した。
はしご酒をしたメンバーで初詣しようと町田天満宮に行ったのを思い出す。記憶はまだ新しく神社までの道は覚えていた。陸橋を歩いて鳥居をくぐったところで一旦足を止める。まっすぐ伸びた参道の先にある拝殿を見て、左右に視線を振った。
さて狩矢の野郎は……あ、いた。
右手にある社務所の前で、口火狩矢は神主の男性と和やかに会話をしていた。初対面相手でも図々しい狩矢に笑顔で接することができる人間は珍しい。
俺が近づくのと、神主の男性が軽く会釈して社務所の中に消えて行くタイミングが合わさる。その場から離れようとしてこっちに体の向きを変えた狩矢と目が合った。狩矢がにこっと笑う。
「やあ、篤人」
「おう。神主さんに余計なこと言って困らせてないだろな」
「余計なことって?」
「呪物に関係したこと」
「ウチにはないって言われたよ」
「一足遅かったか…」
俺はやれやれと息を吐く。狩矢は片手にコンビニのビニール袋を下げていた。スナック菓子の箱が見えている。
「神主さんからここで毎月行われる骨董市の話を聞いたよ。今度覗きに来てみる? もしかしたら勇利の呪物が売られてる可能性あるし」
「その可能性とやらに付き合わされて大江戸骨董市にも連れてかれるけど、毎回空振りに終わってるよな」
絶対に付き合わねぇぞ、という意味を込めて半目で睨んだその時、右足にぽふっと軽い何かの衝撃。足元を見ると、茶トラの猫がいた。
「おや、神社の猫かな」
狩矢が面白そうに猫を見下ろす。
俺の足に体を擦り付けて甘えてくる猫に「食いもんは何も持ってねぇぞ」と言ってみるが、猫は気にせずゴロゴロ喉を鳴らした。
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