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「お兄さん、綺麗な顔してますね。中性的なルックスに色白で透明感もある! うちの芸能事務所に欲しい人材ですよ。学生向けの雑誌モデルに興味ありませんか?」
狩矢は何を言われているのか分かってないのか、子供みたいにキョトンとしている。狩矢から反応がないことに少し戸惑いを見せたスカウトマンは、その胡散臭い笑顔を俺の方にも向けてきた。
「お連れのお兄さんも、長身でスタイルいいですね。それに–––」
「あ?」
第一印象で“目つきが悪い金髪ヤンキー”に見られる俺は、今回ばかりはその損な見た目を利用することにした。スカウトマンを上からぎろりと睨みつけて『邪魔だそこを退け』と圧をかける。
「ひっ! え、えぇえとスーツの君! 名前は? 大学生かな?」
クソ、こいつ粘りやがる…。
「おじさん、オレのことを知りたいの?」
あざとらしく小首を傾げた狩矢がニッコリ笑う。「お、おじさん…」と頬を引き攣らせたスカウトマンは、狩矢の失礼な発言にも頑張って笑顔をキープした。
「そうそう! 君のことをもっと知りたいから、良かったら事務所の名刺を貰ってくれないかな」
スカウトマンは名刺を取り出すためにジャケットの内ポケットに手を入れた。そのタイミングで狩矢がいきなり自己紹介を始める。
「名前は口火狩矢。八首大学三年生。好きな食べ物は甘いスイーツやお菓子類。趣味は篤人とする罰ゲームありの勝負だね。負けた方が一つ相手の命令を聞くってルールなんだ。あと最近の趣味だと、AV鑑賞かな」
「え」
AV? と、目を点にして固まってしまったスカウトマン。
…いやまぁ、そーなるよな。こんな街のど真ん中で、趣味はAVです発言されたらな…。
周りの目を全く気にしない狩矢の口は止まらない。
「AVは本来、男性なら性欲処理のために利用するだろう。女性ならセックスの勉強のためなのかな。けどオレの場合はどちらも当てはまらない。好きでもないし興味があるわけでもない。単なる暇つぶし、空いた時間にドラマを流し見するくらいのちょうど良いアイテム。でも幅広いジャンルを見てきたし、もう趣味に加えても許されるんじゃないかと思ってる」
「え、え、ちょ、あのっ」
スカウトマンは混乱している。
「非日常的な娯楽を好むオレからしたら、AVで興奮できる人が羨ましいくらいだよ。心霊スポットに行くとか、事故物件に住むとか、新しい呪物を見つけるとか、まだそっちの方が興奮できるね」
俺たちの近くを行き交う年齢職業様々な人たちが、狩矢の台詞を耳にしてビックリした顔を向けてくる。
やべぇ他人のフリしてぇ…。
「おい…狩矢」
「そうそう呪物といえば、オレたちは毎日のように“呪物に侵された人間”を探してて–––」
「おい狩矢ストップ!」
「なに篤人。今いいところ、」
「スカウトマン、居なくなってんぞ」
後ろから肩を掴んでやかましい口を止めさせると、狩矢はようやく、目の前にいたスカウトマンの姿が消えていることに気づいて「ありゃ?」と不思議そうに首を傾げた。俺はやれやれとため息をつく。
…まぁ今みたいに、初対面の人間が狩矢に声をかけてそそくさと逃げて行くのは良くあることだ。
黙ってれば美青年。
口を開けばぶっ飛んだ言動で周囲を驚かせてドン引きさせる。
それが口火狩矢という男である。
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